初出■1906年[明治39年]

紹介

智に働けば角が立つ――思索にかられつつ山路を登りつめた青年画家の前に現われる謎の美女。絢爛たる文章で綴る漱石初期の名作。

【感想】2014.1.2

「草枕」夏目漱石を読む。

田舎の温泉を舞台に、画家と宿屋の「非人情」な女を軸に日露戦争後の鬱屈とした世間を描いている。
それとともに、漱石の東洋の芸術や文学観が主人公を通じて語られる。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
と続く冒頭部分が有名な小説だ。
この「非人情」というものがときどき話の流れに浮き沈み、世間を渡るには人情というものは摩滅した方がよいとも読める。
それはこの「非人情」の非は、論理的なAND/ORの意味で使われていると思われるからだ。
西洋的な社会の仕組みを導入した明治の世の中には必然的に契約的な概念が入り込んでおり、その波に揉まれるように人々の人情も変わらざるを得ないことを指しているのではないだろうか。
人情がないのではなく、人情を排して発展していくのが西洋的な社会であり、浪曲に象徴されるような世界観はぐんぐんと遠ざかっていくのだ。
これが書かれた1906年は南樺太を割譲させたり、南満州鉄道会社が設立されたりと、帝国が拡張されていった時代である。
帝政の圧力が民衆に及ぼす鬱屈を背景に、漱石の日本の行く末に対する嫌悪感のようなものが感じられる。
産業革命をもたらした背景にある社会契約の概念がどのように日本人に広がっていくのか、漱石はそんなことを考えていたのではないだろうか。



羊男

物語千夜一夜【第百八夜】

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