紹介

「僕の前に道はない 僕の後…にも道はない。時は、過ぎてゆく。何かを成し遂げても何ひとつなさなくても。青春を遠く離れ、その間に何かを得、多くを失った。そんな記憶の断片からなる18の物語は、いまだ胸に残る希望の欠片(かけら)と諦観の間で揺れている。豊かなユーモアとペーソス、やせ我慢と自嘲、感情と論考、それらに昭和の匂いが織り込まれた上質の短編集。」

講談社文庫

【感想】2009-12-19

かっこよくない、ごく普通に街中を歩いているような中年男を主人公としている短編集。
主人公は作者そのままでもあり、誇張でもあるのが透けてみえるよくできた「お話」である。
まったくおしゃれではない都会小説ともいえれば、ハードボイルドだった頃の探偵小説のようでもある。
しかし何か事件が起きるわけでもなく、私小説のように意味深げでもない。
登場人物はみな団塊の世代であり、暑苦しくもあると見られている彼らの生活がいかに平坦でありつつも苦渋に満ちているかを描いてもいる。
共通している話題は、中年になることの嫌悪感もあるが更に嫌悪しているのが若さに対してだ。
前向きな人々ではあるが、前向きであるようには描かれていない。
同じような作風の重松清のように物語的でもなく、なにか意図があるわけではない。
ただ、いまの時代に生き長らえている人々の姿がここにはある。


羊男

物語千夜一夜【第百十六夜】