紹介

「亡き母が“盆戻り”で家に帰ってきた。その姿も声も、一年前に死んだ時とほとんど変わっていなかった。(「胃袋を買いに」)。ある日、おれの家が、ゆっくりと地中に沈み始めた。(「家族陥没」)。突然、全ての文字が見えなくなった。(「デルメルゲゾン」)など、11の超常短篇を収録。愉快で奇怪なシーナ・ワールドが展開する。」

文春文庫

【感想】2009-12-5

椎名誠のSF短編集、といってよいのだろう。
この作家独特の固有名詞がぞろぞろ登場する、著者の言葉を使えば「超常小説」という現代世界の延長線上にある近未来、あるいは不思議な発達を遂げた世界を舞台にしている。
たとえば「デルメルゲゾン」は、ある男が朝起きると突然に文字がまったく見えなくなる。新聞もちらしも看板もそこに書かれているはずの文字は真っ白なのだ。
これは怖い。
亡き母が“盆戻り”で家に帰ってくる、「胃袋を買いに。」
ある日とつぜん、家がゆっくりと地中に沈み始める、「家族陥没」。
こんな感じで、なにかしら現在とは欠けている、あるいはなにかしら過剰な世界が繰り広げられている、椎名誠独特な奇妙な世界を描く、十一の短編集。


羊男

物語千夜一夜【第百十七夜】