紹介

「彼女のこめかみに埋まった弾丸。鯰文書の謎を解き明かす老教授の最終講義。床下の大量のフロイト。異形の巨大石像と白く可憐な靴下。岩場を進む少年兵の額に灯るレーザーポインタ。反乱を起こした時間。そして、あてのない僕らの冒険──これはSF? 文学? あるいはまったく別の何か? 驚異のデビュー作。」

ハヤカワ文庫

【感想】2009-12-4

円城塔の[Self‐Reference ENGINE]を読み終え、これはピンチョンだと思った。
初期の「V.」なんかを彷彿とさせる。
ただし、世界文学としてではなく、日本SFとしての「V.」であり、ピンチョンだと思う。
様々な時空間を取っ替え引っ換えしているそのコンテンツがピンチョンでは「歴史」だったが、円城の場合は「日本SF」なのだと思う。
こういうSF作家が登場したことは素直にうれしい。
これを読んでなんかだか若い頃によく読んでいたメタフィクションなるジャンルにも再び興味が湧き出した。
しかしながら、もうこちらの脳ミソがついていけない。
理数系の空間イメージがもはや描けない頭になっている。
歳だなあ、と思う。
そんな自分でもこれはちょっとと思うのが、エンディング。
とても自閉的で、まるで私小説であったかのように終わるのが、とても現代日本的だ。
こういう終わり方ならもう少し稲垣足穂ぽく、宇宙の方から主人公を小突いて欲しかった。

そんな日本的私小説のオマージュという意味でおもしろかったのは、長屋に棲む巨大知性体。
どのような想像物なのか、単なる言葉遊びなのか、それは読者にまかせられる想像の領域なのかわからない。
それでも不可知なようで、べらんめえな知性体の登場は小松左京の「虚無回廊」や半村良の「虚空王の秘宝」を回想してしまった。


羊男

物語千夜一夜【第百十八夜】