初出■2003年[平成15年]

紹介

奇病「バフ熱」に苦しむ男の食用洗濯鋏に捧げた半生、風俗研究「トップレス獅子舞考」など、柴刈天神前というありふれた街を舞台に繰り広げられるストーリー8篇を収録。
現代文学から隔絶した孤高の筆が踊り叫ぶ奇跡の作品集。

目次

バフ熱
蚯蚓、赤ん坊、あるいは砂糖水の沼
隠密行動
若松岩松教授のかくも驚くべき冒険
飛び小母さん
愛の陥穽
トップレス獅子舞考
闇鍋奉行

早川書房 ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション

【感想】2004.2.8

かなり変わった小説である。
落語みたいな語り口で柴刈天神前という架空の町内で起こる事件を描く連作短編集である。
なにが変なのかというのはその語り口とともに進む、物語が変なのである。
SFだから当然というのではないが、通常の脈略では物語は進まない。
変な方向へ変な方向へ物語が進んで行くのは、確か七十年代あたりに活躍した横田順弥という作家のハチャハチャとういう、馬鹿馬鹿しさを前面に出した小説と似ているだろうか。それ以外には思いつく類似作品が思い浮かばない。

とにかく面白い小説なのである。
謎の飛行物体「飛びおばさん」やらマンホールの蓋と主婦との不倫を強引に描き、きちんとこの特別な世界での論理に従って結末まで引っ張っていく筆力は並大抵なものではない。
異様というか異常である。尋常でないのである。
こんなことを普段から空想しているような人間とはあまりつき合いたくない。
そんな感じである。

基本的には、妄想なのである。
自分への悪意によって生じるのが被害妄想なのだが、ここには柴刈天神前という町に住む人々を妄想して別天地を作り上げるという、異界妄想に満ち満ちている。
現実とはあまり接点がないので、一般市民には迷惑をかけないと思うが、ホラ吹きじいさんのようにとんでもないデマを流すような、そんな変な作家なのである。

馬鹿馬鹿しいものに対して、私は笑うしか対応の仕様がない。
そんなものの因果関係を考えたって、意味ないじゃん、というわけなのだ。
でもこの小説を読むと妄想の因果関係について考えたくなります。
例えば溜め息をはくコインロッカーの排泄物はどうなるのかとか。
そうなったらもう、ホラ吹きじいさんの策略にはまっているのです。

羊男

物語千夜一夜【第百二夜】

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