紹介

「無活用ラテン語で書かれた小説『猫の下で読むに限る』で道化師と名指された実業家のエイブラムス氏。その作者である友幸友幸は、エイブラムス氏の潤沢な資金と人員を投入した追跡をよそに転居を繰り返し、現地の言葉で書かれた原稿を残してゆく。幾重にも織り上げられた言語をめぐる物語。芥川賞受賞作。」

講談社文庫

【感想】2013-8-25

第146回芥川賞受賞作「道化師の蝶」円城塔を読む。
グローバル経済下の際限のない等価値地獄みたいな話だ。
ここには情念などという人間的なものは、表だっては出てこない。
リアルだと言えばリアル過ぎるから前東京都知事なんて代物にはわからなかったのだろう。
まあ政治のプレゼンの道具にされた方は鼻の小皺を作ったくらいなものだろうけど。

言葉が現実だとういう人がいる。
おそらくその通りなのだろう。
円城塔は愚直にその言葉と現実の一致を試みようとしているかのように読める。
あるいはどれだけ言葉と現実がどれだけ乖離しているかを提示しているかのように読める。
現実の上に言葉があるのでもなく、言葉の上に現実が成り立っているのでもない、のだと読める。
円城塔にはそんなアクロバティックな世界をこともなげに生活している人間とういものが、不思議でならないのだと思う。
メタフィジックという言葉は矛盾に満ちた怪物のような現実を作り出していく、欲望に満ち満ちたビジネスマンにこそふさわしい。

この言語をめぐって連環してゆく物語は、言葉と現実の深くて無限の関係をそのままま描いた、真性(天然?)のメタフィクションなのだと思う。


羊男

物語千夜一夜【第百十九夜】