紹介

「ペルシアの暗殺法を伝える山で刺客として育てられた美貌の稚児。志を胸に山を下りた少年は、長じて松永久秀と名乗り、京を手中に収める。織田信長より過激、斎藤道三よりしたたか―戦国一婆娑羅な悪党は、妖しの法を自在にあやつり、信玄、謙信、光秀はじめ群雄たちを翻弄する。虚と実の狭間に屹立する異形の戦国史。」

中公文庫

【感想】2009-12-22

宇月原晴明の初体験だったのだが、ちょっと選択が失敗したようだった。
戦国時代を舞台とした伝奇小説で、何人もの有名な武将が登場する。
そのうちで主人公として物語を作っていくのが、関西を支配する松永久秀と美濃の斉藤道三、織田信長に仕えた明智光秀の三人だ。
時代小説を読まないのでよくわからないが、なんでも司馬遼太郎の「国盗り物語」へのオマージュとして書かれているらしい。
その舞台上で、道三と久秀をモンゴルから渡ってきたイスラムの暗殺教団の末裔として、その魔術を駆使するところがこの伝奇の目玉だ。
戦国時代だからキリスト教をモチーフにできるのは当たり前だが、イスラム教史観によって史実を読み替えていくところが白眉なのだ。
この才能は伝奇作者としてはなかなかもので、国枝史郎や山田風太郎、半村良といった大御所に連なっていくものだ。

でもね、ちょっとお腹いっぱい。
いろんなものを詰め込みすぎて、私の低駆動な脳味噌では処理仕切れないのであった。
これはやはりもう少し短めの宇月原晴明の小説を読んでから挑戦するものであったのだ。
半村良でもまず「石の血脈」や「産山秘録」あたりを読んでから、「妖星伝」を読もうというもの。
いきなり初めての店でかつ丼の大盛りを頼むようなもの。
とは違うかも知れないが、いきなり想像を超えるような大盛りが出てきたときの驚きと似ているのだ。
こちらもそれに見合う体力と意気込みと暇がないとダメなのだ。
などとげっぷを押さえながらも、案外と満足ではあったのだ。


羊男

物語千夜一夜【第百十五夜】