紹介

山肌に沿い立ち並ぶ鉄塔の列、かつて移動スーパーだった裏庭のボンネットバス、
ゆるやかに見え実は急な未見坂の長い道路……。時の流れのなか、小さな便利と
老いの寂しさをともに受けいれながら、尾名川流域で同じ風景を眺めて暮らす
住民たちのそれぞれの日常。そこに、肉親との不意の離別に揺れる少年や女性の
心情を重ねて映し出す、名作『雪沼とその周辺』に連なる短編小説集。

【感想】2013-6-2

いろんな人たちのいろんな光景を写し取った画像をモノトーンに編集し直した
ような短編集。
その切り取り方、細かな部分にこだわる編集の仕方が心地よい。
なんとなくポラロイドカメラで撮った写真のようであり、人々の出来事を
アナログで写し取っている。
その映像はぼんやりとした色あせた色彩のように不思議な現実感が漂っている。

ここで描かれているのは、家族写真でもなく短編映画のようでもなく、
まるで歴史のひとこまとしての記録写真のようだと思う。
それは無頼派の私小説でもなく幻想小説でもなく、現代小説風でもない。
まるでサティの小品集のような味わいとでも言えばよいのか。
短い文章の連なりから情景が広がって見えるのは、ひとつひとつ言葉が
選ばれているからだろう。
記録写真のように静かだけれど、ときおり意地悪く波立つことがあり、
そしてまた穏やかな波紋に移り変わっていく。
心地よい静かな時間を過ごしたいときにお薦めの本。


羊男

物語千夜一夜【第百二十四夜】