活劇ですがあまり血生臭い描写はなく、中国王朝物語的な権謀術数が繰り広げら れていて、その中を日本の元戦国時代の小国の城主がこの異国で王になった懐旧 と王を推挙した麒麟の苦悩を随所にちりばめた、なかなか心憎いストーリーテラ ーならではの、物語に仕上がっています。まだ出されている「十二国」全部を読 んだわけではありませんが、たぶんこの本で小野不由美先生はブレイクされたのではないでしょうか。
この「ホワイトハート」という文庫は十代の読者を想定して出版されているのだ と思いますが、傑作というのは得てしてそういう制約から外れていく傾向がある という慣例を見事に踏襲していると言えると思います。望むらくは今回の敵役、 斡由を単純な偽政者として描くのを、もっと複雑な民の幸せを願う中間管理職的 な(笑)悪役として登場させてくれると、「小野先生、おのれもやるのう」と、 ビジネス極意として「三国志」を読んでいる中年サラリーマンにも大受けだったことは間違いなかったものと思われるのが残念です(笑)。
それからこの異界の設定もかなり緻密に描かれていて、だんだんと「十二国」に
慣れ親しんでいくのが楽しいです。そうそう最後に繊細なイラストを描いている
山田章博ですが、今回の主役「尚隆」は線が細すぎで、本文での豪放磊落なキャ
ラクターと全然あっていないと思うんですが。
やはり、登場人物の全てが美男美女でなければいけない、というのがこの文庫のさだめなのでしょうか(笑)。
物語千夜一夜【第六十八夜】