『眠る石』
中野美代子
【カバー文】
七世紀のタクラマカン砂漠から二十世紀のカンボジアまでの時空間に
該博の知識と豊かな想像力が紡ぐ魔か不思議な、十五の夢幻の物語。
ハルキ文庫
【感想】
本人も書いているけれど「地名への偏愛」がこの本を作っています。
ボロブドゥールや楼蘭、ウェストミンスターやザナドゥーといった東西を問
わず隔なる歴史の中に埋もれた土地への執拗な想像力がこれらの短編の主人
公となっている、不思議な物語集です。いわゆる「主流」の小説から外れて
いる名実ともに辺境的な小説と言えるのでしょう。まあNHKの「シルクロ
ード」的な番組かな(笑)。都会の喧騒を逃れてリラクゼーションするには
もってこい、というよくあるTVレポーターが使うコピーのような世界でし
ょうか。ちょっと失礼ですね。
でも例えば同系列の澁澤龍彦「高丘親王航海
記」と比べるとやっぱり物足りない。どこか学者っぽい難さがあるんですね。
そこがもったいない。もっと登場人物に魅力があるということないんですけ
ど。でも歴史好きで特に「失われた〜〜」に弱い人とかにはおすすめです。
きっとこれを読んで歴史学者とか地理学者になろう、という若者はいるんだ
と思います。それぐらいに魔か不思議な知識はいっぱいつまっている本です。
しっかしこの「ハルキ文庫」というネーミングはどうにかならんのかね、ま
ったく。野暮の極み(^^;)
★羊男★1997.10.10★
物語千夜一夜【第六十七夜】
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