『地獄変・偸盗』芥川龍之介
【内容】
第二集『地獄変・偸盗』新潮文庫
”王朝もの”の第二集。芸術と道徳の相剋・矛盾という芥川のもっとも切実 な問題を、「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルに追及し、古金欄にも似 た典雅な色彩と線、迫力ある筆で描いた『地獄変』は、芥川の一代表作であ る。
ほかに、羅生門に群がる盗賊の凄惨な世界に愛の様々な姿を浮彫にした 『偸盗』、斬新な構想で作者の懐疑的な人生観を語る『藪の中』など6編を 収録する。

(背表紙より)

収録作
「偸盗」「地獄変」「竜」「往生絵巻」「藪の中」「六の宮の姫君」


【感想】

『偸盗』
この作品はもうエンターテーメントの領域に入ってます。
盗賊の兄弟と羅生門に巣くう盗賊団の女頭目との異様な愛と葛藤をぞくぞく するような筆致で物語を演出しています。
かなり難しい漢字も多いので物語に没入するのに時間がかかるかもしれませ んが、その苦労した分、平安朝の殺伐とした光景に存分浸れる短編です。
これなんかも黒沢明ばりの映画で見たいものです。

『地獄変』
これは地獄絵を描いた絵師をテーマにした狂気的な熱情をモチーフにした作 品で、これもかなり有名ですよね。この短編は初めて読んだのですが、昔こ の設定を平安時代から現代に置き換えた日野なんとかいう漫画家の作品を読 んでいたことがあって、漫画の方はとにかく絵が気持ち悪いので怖かったの ですが、この原作の方はラストで愛する娘を焼き殺してしまう凄まじさは漫 画の比ではありません。ここまでくると芥川の才能ってちょっと異常。

『竜』
これは竜が出るぞ、と坊主が嘘をついたのが見る間に天下に広がって竜が出 るという沼に見物人が大勢集まってしまい、嘘をついた坊主が途方に暮れる という、筒井康隆の短編のような広告的な話です。

『往生絵巻』
これは神仏の奇蹟というもの荘厳さを対話形式で描いたものですが、まああ んまり面白いとはいえません。

『藪の中』
ご存知、黒沢明の映画「羅生門」の原作です。これも先に映画の方を見てい たので、どんな内容か知っていたのですが、読んでみるとけっこう前衛的で もあるしゴシック的でもある書き方ですね。
先日黒沢明追悼番組で「羅生門」を見たあと、この作品を読んだのですが、 とても精緻な描写を映画の方では行っていたんだなあ、と驚きました。

『六の宮の姫君』
これは王朝ものらしいか弱い姫君のお話。じっくり読むといいんだろうけど、 ちょっとインパクトに欠ける作品ですね。


★羊男★1998.11.1★

物語千夜一夜【第六十六夜】
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