そこで物語は、この発掘に加わった色とりどりの人びとが織りなす、悲喜こもごもの人間模様が展開し始めることとなるのです。
発掘に従事する考古学者は、紀元前2500年頃の土地の有力者=天文学者を祀った墓ではないかと予測し、障害を持つその妻との話が綴られます。
そして古代の宇宙観をめぐって、アルデバランを観測している天文学者が登場し、ロンドンからは環境庁のエキセントリックな女性役人がやってきます。このエヴァンジェリンなる女性のリアルな描写が素晴らしく、どちらかというと単調なこの物語を引っぱっていってくれます。
さらにこの女性役人と、その同性愛の愛人との語り。
そしてこの土地の伝説を体現する農場主ミント一家。
また、自らのルーツを探りにやってきた老芸人とその妻が登場し、物語をふくらませます。
はたまたニュースを聞きつけて、ヒッピー族ふうの若者たちまでが集まってくる。
このような造形ある人々が、とても複雑で不思議な、一種神話的な人間関係が物語られるのです。
「原初の光」はまるでミニマルミュージックのような本です。
登場人物の細かな意識が繰り返し話され、ストーリーはきちんとあるのにも関わらずほとんど足踏み状態になりがちなのです。
それでもその細かな意識の流れが気になってしかたがない。
不思議な小説なのです。
また、この作品の舞台であるドーセットには心ひかれるものがあります。
私はまだ見ていないのですが、この土地はジョン・ファウルズ原作「フランス軍中尉の女」のロケ地となっているそうで、この映画の中でその風景を確認できるようです。
環状列石だけでなく、19世紀初頭には12歳の少女がイクチオサウルスの化石を発見したことでも知られているそうです。
そうした立ち込める霧のようなエキゾチシズムは、環状列石を造った古代のウェセックスの住民に対するロマンといったところだと思います。
このウェセックスの心象を描いている物語は過去にはトマス・ハーディーの作品、”ウェセックス”に描かれているそうです。これも私はまだ読んでないのでなんとも言えないのですが。
最近ではSF作家のクリストファー・プリーストの「ドリーム・マシン」があります。
「ドリーム・マシン」も「原初の光」同様、過去と現在、そして未来を交差させた「ウェセックス多重世界」を描いています。
きっと太古と現代、夢と現実を融合させやすい土地なんだろうと思います。
この三作品を「ウェセックス」三部作と呼ぶかどうかは眉つばではありますが、この地方に想いをはせるには絶好の本ではないでしょうか。
あとはつまらない歴史の本の断片で知識を増やし、ストーンヘンジに関する本を読んでみたくなってきます。
そしてBGMはマイク・オールドフィールドの「ハージェスト・リッジ」や「オマドーン」といった初期の作品が最高ですね。
きっと、最後に神話的な宇宙観が語られるトーンを大いに盛り上げてくれるでしょう。
物語千夜一夜【第四十八夜】