『カジュアリーナ・トリー』サマセット・モーム
訳者:中野好夫・小川和夫 出版社:ちくま文庫

【紹介】
東インド諸島、マレー半島にかけて生育する奇木。満月の夜、この木の陰に 立つと、未来の秘密を囁く声が聞こえるという。その木の名はカジュアリーナ・トリー。
南島未開の異常な環境のもとにおける、異常な事件と、異常な心理を あつかった六つの短編を収録。(裏表紙より)

【感想】

ボルネオとかマレー半島の英国植民地に入植した主にイギリス人の、開拓地 での生活を描いた短編集である。

「環境の力」という短編のタイトルに象徴されるように、その欧文明から遠く離れた過酷な熱帯の生活、異なる慣習の現地人たちとの軋轢によって、異様な事件がおきてしまう。
愛人を殺害しながらも平然と市民生活を続けていく夫人。アルコール中毒に なってしまった夫を更正させる努力を重ねながらも疲れはてて夫を殺害してしまう 女性。植民地で生活していても英国紳士であることをやめず、同僚との政争に 明け暮れる男たち。妻をめとった後も現地の娘に惹かれる誘惑に勝てず、ついには 妻を本国に帰さざるをえなくなった男。

モームはけっして現地の人間を描こうとはしないが、それがかえって植民者の 英国人の心理を孤独で異常なものに見せている。

あまり寒い冬時に読む小説ではないかも知れないけど、探偵小説仕立ての構成 で読みやすいくて、文学の香りもするこの本は、暇な休日を優雅に楽しむのには うってつけだと思いますが。


★羊男★1995.11.19★

物語千夜一夜【第ニ十一夜】

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