【読書日乗/2003年度】

「にっぽん・海風魚旅・怪し火さすらい編」椎名誠 講談社
「超芸術トマソン」赤瀬川原平 ちくま文庫
「新刊めったくたガイド大全」北上次郎 角川文庫
「SFへの遺言」小松左京
「超貧乏旅」田中良成
「人斬り以蔵」司馬遼太郎 新潮文庫
「インスタントラーメン読本」嵐山光三郎編著 新潮文庫
「競争優位のアライアンス戦略」ゲイリー・ハメル+イブ・ドーズ ダイヤモンド社
「自走式漂流記」椎名誠 新潮文庫
「ハサミ男」殊能将之 講談社文庫
「小説ペイオフ」木村剛 講談社文庫
「会社はこれからどうなるのか」岩井克人 平凡社
「オープンソースワールド」川崎和哉編著 翔泳社
「日本の怪獣・幻獣を探せ!」宇留島進 広済堂文庫
「ブルーホール」星野之宣 講談社漫画文庫
『「世界」とはいやなものである』関川夏央 NHK出版
「ウルトラマン創世期」桜井浩子 小学館
「YMOコンプレックス」円堂都司昭 平凡社
「石ころだって役に立つ」関川夏央 集英社
「豪雨の前兆」関川夏央 文芸春秋
「くれよんしんちゃん・オトナ帝国の逆襲」
「あやしい探検隊 焚火発見伝」椎名誠+林政明 小学館文庫

2003年01月05日(日)


今日の朝日新聞の「天声人語」と読売の「編集手帳」の両方に村上春樹の「羊をめぐる冒険」を引用した手記が書かれていた。
朝日の方は現代では冒険とは縁遠い時代になってしまったというもの、読売の方は羊の従順さの裏に潜む一種の不気味さというものについて書かれている。
どちらがどうと言うわけではないが、「羊」という動物に貼りつけられた幾つもの意味を考えていくと、読売の方の暗示は思わせぶりだし、気も暗くなる。
景気が悪いからといって、しかめ面ばかりしていても、いいことはないのだ。

2003年01月07日(火)
「にっぽん・海風魚旅・怪し火さすらい編」椎名誠 講談社


いつもながらの椎名誠の日本の海べりをめぐる旅の本のひとつ。
もはやどこかで読んだなあ、と思いながらもまたひとつまたひとつと椎名誠の本を読んでしまうのは、既に三度の食事と同じようなものである。
今回は小さな島を廻る旅で、日本で一番小さな有人島に住む小島一族を訪ねたり、西表島のアダンの林の中に住み着いている元カルメン・マキのギタリストと出会ったりしながら、うどんばかり食べている椎名誠なのである。
いつかはこういう旅もしてみたいとは思うけれど、現実の旅は嫌なことも多いから旅行記で代替するというのも正しいもののあり方かも知れません。

2003年01月11日(土)
「超芸術トマソン」赤瀬川原平 ちくま文庫


今日は休日出勤であった。
まあこういうこともあるが、風邪の身にはつらい。
つらいので、心身が軽くなる赤瀬川さんの本を読む。

これは人間の建てたビルや家が時の流れの中で無意味なものに変貌していく様を、不思議な光景として捉え、その痕跡を記録に留めようとした、20世紀日本美術
史最大の民間プロジェクトの記録である。
などとこんなことを書いても無意味である。
その面白さは読んでみないとわからない。
その面白さは風邪をひいて呆然と床に入りながらも楽しめる明快なものだ。
本が厚いので肩がこるけど。
それにしてもこの赤瀬川さんというのは現代日本における最も不可解な人のひとりであることは確かだ。

2003年01月12日(日)
「新刊めったくたガイド大全」北上次郎 角川文庫


今日はだらだらと家で本を読んで過ごす。
かなり風邪はよくなったのだが、仕事の疲れが残っていたりもする。
こういうときは本を読むのがいちばんである。

この本は「本の雑誌」でいまも連載している新刊紹介の書評を集めたものだ。
1979年から1994年まで15年間の読書ガイドとということだ。
この人の書評は読んでいて楽しいので好きだ。
こうして書評集本を買ったり、朝日新聞なんかにも登場するのでよくその紹介文を読むけれど、薦めている本を買いに走ったりしたことはないのだ。
まあ読書傾向が違うといつたらそれまでなのだが。

2003年02月01日(土)
「SFへの遺言」小松左京


出版された当時はこのタイトルが哀しくて読めなかった本だ。
なんだか小松左京が不治の病にでもかかってしまったような気分にさせられたからだ。
まあそれでも存命のようなので読んでみたけど、やはり寂しかった。
いろんな思いで話が出てきて楽しいのだが、やはり遺言のような本であることは確かだ。
漫才の台本を書きとばしていた頃や「アトム」という原子力の雑誌編集をしていた頃の話などはさすがコンピュータ付きブルドーザーの異名を持つ作家だとほとほと関心してしまう。
だから余計に現在のSF作家たちとの対談でやり残したと思えるようなことがいろいろと出てくるのが寂しいのだ。
これから先、小松左京のような総合科学者的な作家はいつか出てくるのだろうか。

2003年02月10日(月)
今日買った本


今日は休みでショッピングセンターに行ったら、古書市をやっていた。
自分の古本を四冊と子供とかみさんの本をいくつか買う。
「20世紀の記憶・満州国の幻影」毎日新聞社
「歴史の夜咄」司馬遼太郎+林屋辰三郎 小学館
「海南小記」柳田国男 角川文庫
「本の雑誌風雲録」目黒考二 角川文庫
昔から何故か満州国には異郷趣味的なものを感じてしまうのだ。
この目黒考二の本は既に絶版になっているようなので手に入ってうれしい。
なぜかいま彼の本をあれこれ読んでいる最中なのだ。

2003年02月11日(火)
今日買った本


今日は4年間活躍してもらった車を買い換えた。
もちろんまた中古の軽自動車である。
とにかく今住んでいる場所は車が必需品なので、かなりガタのきていた車を仕方なく換えたのだ。
そうでなければ走れば良いという選択枝だけなので品定めも5分ぐらいで終わってしまった。
手続きもこのぐらいの早さで終わるとうれしいのだけど。
今日は郊外のリサイクルショップで文庫本を八冊買った。
「日本の怪獣幻獣を探せ!」宇留島進 廣済堂文庫
「幻文明の旅」荒巻義雄 徳間文庫
「超貧乏旅」田中良成 扶桑社文庫
「みるなの木」椎名誠 早川文庫
「あやしい探検隊焚火発見伝」椎名誠+林政明 小学館文庫
「戦慄のカルト集団」ジェイムズ・ボイル 扶桑社文庫
「暁の女王と精霊の王の物語」ネルヴァル 角川文庫
「暗黒の序章」山田正紀+永井豪 角川文庫

2003年02月16日(日)
「超貧乏旅」田中良成


おそらく私よりも数十年も年下の世代が書いた国内の旅行記だ。
いまどき若者が日本国内を旅して面白いことがあるのだろうか、などと余計なことを思いつつ読んだ。
この若者のはその土地の景色を見るよりもその土地の人間を見ること、ふれ合うことが面白いらしい。
しかもおばあさんとかおじいさんとの出会いを喜んだりしている。
こういう若者もいるのだなあ、と自分の常識の偏見を悟さられる。
この著者は「貧乏」という言葉に固執しているが、それが戦後に苦労した人との言葉の重みの違いを指摘されながらも、お金がなくても旅をしたいという思いを貧乏旅と呼ぶこと許して欲しいと書いている。
許すも許さないもないのだが、ここに傲慢さを読んでしまうのも私の偏見のひとつだろう。
しかしながら時代を感じさせるのはやはり、日本へ旅してくる海外のバックパッカーたちとのつきあいだ。
湯治場での老人たちとの予定調和よりも、こうした身近におきている越境的な話がとても面白い。

2003年02月20日(木)
今日買った本


今日は客先の予定で時間が空き、帰りの乗り換え駅の古本屋で文庫本を四冊買う。
「続・妄想ニッポン紀行」小松左京 講談社文庫
「メナムの残照」トムヤンティ 角川文庫
「侵略惑星サイクロの謎」ロン・ハバード サンリオ文庫
「インスタントラーメン読本」嵐山光三郎編著 新潮文庫

嵐山光三郎ってなんか好きかってにやってますなあ。
なにを読んだか忘れたけど、とても腹が立って以来読んでないのだけれど、いまなら面白く読めそうな人に思える。

2003年02月21日(金)
「人斬り以蔵」司馬遼太郎 新潮文庫


時代小説はやはり歳をとってから読むものだという気がする。
おそらく40代になると終わりに向かう未来のことを考えはじめる。
あと半生をどう生きるか、というのがとても重大なことのように思えてくる。
まあ実のところ、いままで通り生きるしかないのでたいしたことではないのだけれど。
そうした点から先の時代に生きた人々がどのような半生を過ごしたかが気になって、司馬遼太郎を読んで国家を考えたり、時代小説を読んで男の生きる道を考えたりするのだろう。
まあそれは悪いことではないが、いままで時代小説など読んだことのない私には男尊女卑の典型的な物語にも思える。
そこには男に仕える女性しか出てこないのだから。
そうした視点をあれこれさっ引けば、企業小説よりはやはり楽しめるような気がする。
会社の中でどう成り上がるか、あるいは生き残るかという処世術よりは男ひとりどう生きていくか、といったことの方が面白いに決まっている。
そういう意味でも時代小説はおじさんの聖域なのだと思う。

2003年04月19日(土)
「インスタントラーメン読本」嵐山光三郎編著 新潮文庫


古本である。
インスタントラーメンへの愛を歌った、いかにも安易だが面白い企画な本である。
エッセイは橋本治や南伸坊、糸井重里や中沢新一らが登場している。
まあそれなりの読み物なのだが、なによりは嵐山によるインスタントラーメン101種類を五泊六日で食するというバカげた企画である。
読んでいるこちらが化学調味料に侵されていく気分になるほどだ。
まあ当然ことごとく試食ていどの味見に終わっていくのだが、それでも六日間もインスタントラーメン浸けになるというのは、ものすごい覚悟であると思う。
また即席麺リストも個人の生活に直接結びついているがゆえ、たいへん貴重なものかも、知れない?
100円均一で見つけたら、買って損はしない本である。


2003-07-10 「競争優位のアライアンス戦略」ゲイリー・ハメル+イブ・ドーズ ダイヤモンド社

このジャンルでは古典らしいので読んだけど、言ってることが単調で読んでいてつまんなかった。もっと独自の発想がないとねえ。


2003-07-15 「自走式漂流記」椎名誠 新潮文庫

いわゆる早すぎる自伝というやつだけど、生き方が売りの作家だから、面白くないわけがない。
いまどき喧嘩が強くて文章もうまいなんて、昔でいうならば文武両刀の作家なんて少ないからね。


2003-07-21 「ハサミ男」殊能将之 講談社文庫

この推理小説にはたまげました。
この作家の第二弾である「美濃牛」は既に読んでいるのだが、それを上回る圧倒的なな読書体験である。しかもこちらの方がデビュー作とは。
日本にはまだまだすごい作家がいるのですね。
この推理小説はイエスのようなプログレッシッブロック・グループの音楽のようにすさまじいほどの変拍子でいっぱいだ。
このテクニックに裏打ちされた構成とマニアックな知識が相乗されたこの小説は、まさに日本の新青年系推理小説の歴史に正当な嫡子としてふさわしいものである。
笠井潔の登場以来の興奮である。


2003-07-26 「小説ペイオフ」木村剛 講談社文庫

2000年に書かれたこの小説はかなりの確度で日本経済の予測が当たっている。
なんだか空恐ろしいが、このぐらいの能力がないと金融界でトップの名声にまでいくことは難しいのかも知れない。
それならばこういう人が金融大臣とかやってくれればいいのにと思うのだけれど。
このシナリオ通りにまだ行ってないのが「通貨が堕落するとき」という副題の状況だ。
金融音痴でもそこそこ分かるよくできた金融小説だ。


2003-08-11 「会社はこれからどうなるのか」岩井克人 平凡社

日本人でノーベル経済賞を取るとしたら、この人しかいないと言われている経済学者の
一般人向けの本だ。
内容はこれからの日本と経済、その中で揺れ動いている会社というシステムについて平
明に書かれている、わかりやすくて刺激的な本である。
どうして今の日本経済の低迷があるのか、果たして日本の「会社」というのはどのよう
な存在でどんな仕組みで動いているのか、私たち労働者というものはどのようにこの会
社や日本経済と関わっているのか、そしてこれからどんな役割を私たちと会社は担おう
としているのか。
こうしたことをくっきりとした輪郭を明示しながら、推論を進めていく筆致はまさしく
プロだと思える論考となっている。
根底的な資本主義とは何か、といった議論にも紙幅を割いているので、いまの世界が物
事や思考の「差異」を追求していくしかない複雑化した怪物のような様相となっている
ことを何度も諭さられる仕組みともなっている。
そして論考はさらに未来に及び、資本主義の未来としては経済活動はどんどん細分化し
ていって、いづれNPOや個人業態が主流となるだろうと結んでいる。
私がとても感じ入ったのは、冒頭の次の文章でした。

アメリカ型の株主主権論がこれからの会社のあり方のグローバル標準とはなりえない、
とわたしが言うことの第二の根拠は、まさにその二十一世紀の資本主義において、おカ
ネ(資金)の重要性がますます失われていくということにあります。
株主とは、会社にたいする究極的なおカネ(資金)の供給者ですが、このおカネの供給
者の力がこれからの会社のなかのバランス・オブ・パワーにおいて、ますます軽くなっ
ていくはずであると論じようと思っているのです。
その意味で、未来に向けて繁栄していく会社の姿は、かならずしも株主主権的な会社で
はないはずであるのです。

リストラといった今の日本の現況を含め、自分の身の回りの経済を考えるのにはとても
良いテキストであり、アメリカ型の経済にもその答えはないとする論旨にはとても頷け
るものがありました。


2003-08-22 「オープンソースワールド」川崎和哉編著 翔泳社

今ごろになって、ですが、オープンソースの基本文献であるレイモンドの三部作を読みました。
これはウェブとかインターネットに関わっている人とか、それを生業にしている人には必読の論文で、読んだことがない人は素人といわれても仕方がないものです。
かの山形浩生訳の「伽藍とバザール」「ノウアスフィアの開墾」「魔法のおなべ」を中心として、オープンソースの関係者のインタビューなどをまとめた本です。
よくインターネット革命という表現をする人がいるけれども、もしかしたらそれほど大げさではない、と思わせられたりもする。
これはインターネットを支えているウェブサーバとかメールとかオペレーションシステムを無料で開発し、無料で提供している人たちの思考や行動をまとめた、マニフェストとも読めるからだ。
マニフェストと言えば、ダダやシュールレアリズムの宣言が有名だけど、そうした運動が一般にまで影響が及ぶことはなかったと思う。
しかし今のインターネットはテレビ並みの普及に向かいつつあるからだ。
まあいま、インフラの水道や電気の仕組みを知りたいとういう人は少ないと思うけれど、インターネットと同時代に生きる私たちには知っておいて損はない、ハッカーの文化圏がまさにリアルタイムで描かれているのだ。
実際ここに載っている論文はインターネットで無償で読むことができる。
それを印刷した本で読むというのも個人が選ぶひとつの選択肢なのである。
ここにはお金の価値が絶対値ではない、思考と行動の実践がたくさん詰まっている。


2003-08-25 「日本の怪獣・幻獣を探せ!」宇留島進 広済堂文庫

実にくだらない本なのである。
知る人ぞ知るヒバゴンとかヤマゴンとかクイゴンといった獣人とか、イッシーとかクッ
シーとかトッシーとかモッシーといった怪竜とか、ツチノコやカッパのとの遭遇事件を
集めたものである。
ウルトラQ世代はこういう本に抵抗力がないのである。


2003-08-28 「ブルーホール」星野之宣 講談社漫画文庫

マンガを読むのは久しぶりだ。
これはむちゃくちゃなSFで、現代と中世代白亜期が繋がっているミステリーホールが
見つかり、恐竜が生息している世界に迷い込んだ人間が巻き起こす、ジュラシックパー
クみたいな話だ。
それでも強引に読ませてしまうのはこのマンガ家の実力で、一気に読んで寝不足になってしまいました。


2003-09-08 『「世界」とはいやなものである』関川夏央 NHK出版

サブタイトルに「極東発、世紀をまたぐ視線」とある。

「大正に軍を軽蔑して、昭和に日本は軍に滅ぼされた。昭和戦後に政治をばかにして、
平成に政治の貧困のために日本が滅びるのは天の報いだが、政治を軽んじても船が航行
し得た時代はバブル経済直前にすでに終焉していたことだけは、よくよく知っておく必要がある。」
そんな本だ。

私たちの社会はあきらかに煮つまっていることを、堂々としかも近代から現代に渡る東
洋の歴史を総局に把握しながら、相対的に語り継ぐ文章の数々は最近の政治を語る不毛
な言葉たちを補って余りあるものだと思う。

「それにしても世界とはつくづくいやなところである。あのハイテクのかたまりのよう
な旅客機がカッターナイフでハイジャックされ、それが七千人の死につながったとは、
虚を衝かれすぎて言葉もない。歴史とは結局進歩しないのである。」
ほんとに、その通りであると思う。


2003-09-13 「ウルトラマン創世期」桜井浩子 小学館

ウルトラマンの科特隊にいた女性隊員が書いたウルトラマン撮影時の思い出書きのよう
な本だ。思ったほど面白くないもので、楽しめたのは毒蝮三太夫らが出席した座談会の
模様ぐらいか。この毒蝮という人は芸能界でも不思議な存在ですね。

今日は家族で遠出する予定だったが、昨夜酔っパライであった私の不覚のために中止。
図書館に行き、ショッピングセンターに行くだけという、普通の一日で終わってしまった。反省。


2003-09-14 「YMOコンプレックス」円堂都司昭 平凡社

YMOについて書かれたエッセイ集だが、どうも視点が定まらないところが仇になって、面白さがいまひとつ。

今日は教会に行った後、暑いのでショッピングセンターに避難。
お昼を食べ、買い物をして家に帰る。
なにもないふつうの日曜日のすごし方である。
夜は涼しくなり、ビールがおいしいのであった。


2003-10-04 「石ころだって役に立つ」関川夏央 集英社

サブタイトルは「「本」と「物語」に関する記憶の「物語」」である。
本というものに対する哀愁と時代に忘れられた知識という特権的な意識に対する嘆き、あるいは父親と昔日の恋人に捧げられた物語といった文章が詰まった小さな本である。
私はこういったエッセイなのか私小説なのかよくわからない、著者本人の立像が思い浮かべられるような本がすごく好きだ。
「私は嘘つきだが誠実な人間だ」
この本はこうした言葉で締めくくられている。
私もそうありたいと、日々思う。


2003-10-17 「豪雨の前兆」関川夏央 文芸春秋

ここのところ、関川ばかり読んでいる。
とはいっても忙しくて、本を読む時間がほとんどない。
通勤でも座席についたら、すぐに寝てしまう。
本を読むのは乗車時間が短い地下鉄のなかぐらいだ。
このエッセイは著者の幼い頃の汽車の思い出や松本清張の時刻表推理小説の話やらが続く「操車場から響く音」といった昭和の話。
あるいは夏目漱石の大病を扱った「豪雨の前兆」といった明治の話。
「須賀敦子の、意志的なあの靴音」や「東京旅行」といった著者の交友関係の話。
また「大久保利通の「発見」」や「焼いた塩鮭の皮」といった歴史の遠景を手繰る話など。
どれも大人になりきれない中年が読むには興味深いものが多い。


2003-10-18 「くれよんしんちゃん・オトナ帝国の逆襲」

今夜テレビで見ました。
なかなかよくできたノスタルジックでホームコメデイ満載のアニメでした。
ストーリーは現代的な子供への期待をこめたものだったけど、これを子供が喜んでみるのだろうか、と疑問に思うほどオトナ向けでした。
しかしストーリーは別として、のはら夫婦の原風景である、大阪万博とか田んぼのあぜ道だとか夕焼けの商店街といったものに飲み込まれていくオトナたちの感覚がちょっと違うのでは?と思ったけど。
映画の中でしんちゃんの父親は大阪万博では幼稚園児だったから、私は彼より少し年上になる。
でも私は連れていってもらえなかったエキスポも、ロックに合わない田んぼのあぜ道も、地縁とか共同体のシンボルである夕焼けの商店街とも無関係になりたかったのである。
そんな風物誌にノスタルジィを求めろと言われてもなあ、と見ていたのだけど。
まあ若い頃ビートルズが嫌いだった私には、レノンとヨーコの戯画化の方が面白かったかな。


2003-12-13 「あやしい探検隊 焚火発見伝」椎名誠+林政明 小学館文庫

最近、土曜日の午前中は病人なのである。
疲れがどっと押し寄せるように積み重なって、体が動かない。
体が動かないということは頭も動かない。
週休二日というのは明らかに中年以上の労働者のためにある。

そんな元気のない労働者が憧れるのはこの本にあるような焚き火をして、おいしいものを食べながら、ビールを飲むことである。
私はそんな楽しいことは一度もしたことがない。
だから他人の体験ほ読んで楽しむのである。
ここにある狸汁やらタケノコ焼きなどは一度は食べてみたいものだ。
しかし自分でもやってみたいとは思うが、思うだけで、実地を試すことはないだろう。
面倒なのである。



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