◆1999年度こんなの読んだよランキング◆48冊◆

★★★★本の解説

昨年の最高本はすべてアメリカ小説でした。

1.「怒りのぶどう」ジョン・スタインベック


読んでいる時も読んだ後もじわじわとその物語ってくる迫力に圧倒されっばなしだった小説。
社会に対する愛憎をこれほどまでに語りつくそうとする小説は読んだことがないです。
今ではこんな、人間とは何か、なんていう大文字の文学は珍しい恐竜みたいなもんだけど、かつてそうした大時代的な生き物がのしのし歩いていたという、歴史絵巻を見るようなスペクタクルな楽しさもあります。
20世紀最高の小説はジェイムス・ジョイスの作品に決まったようですが、そうしたハイクラスの牙城に迫るような壮大さを持っていると思います。

2.「偶然の音楽」ポール・オースター


スタインベックと比較するとオースターは洗練しすぎていて、荒々しさといったインパクトはないものの、都市といった新しい自然の中にある狂暴なものが静かに渦巻いている心景を描く筆致にはとても共感を覚えます。
心の底に沈んでいる「なにか」を手探りで探り当てていくさまは、実は非常に古めかしい聖杯伝説を読んでいるような、古典的な物語を連想します。

3.「貧乏白人」シャーウッド・アンダーソン


古き良きアメリカが変貌していく姿をひとりの貧乏な男を通して描いていく迷いの物語。
生とは何か、富とは何か、自分とは何か、社会とは何か。

マージナルなドグマからセントラル・ドグマに視野を移しつつ、産業革命を批判的に描いた古き良き小説。

4.「おお、開拓者よ!」ウイラ・キャザー


アンダーソンが男性的な視野から古き良きアメリカの変貌を描いたとすればこの小説は女性の立場から、大きく変わっていく社会と女性の位置を描いた小説。
中西部の開拓地で地道に誠実に生きていく女性が様々な困難に立ち向かう中で、これまた生きていくことのセントラル・ドグマを問う作品。

こうした古典的な小説って、本読みはいつか通過する「はしか」みたいなものなんだろうけど、年くってからはしかを経験するのは、やたら恥ずかしいんだけど、まだ「若い部分」が残っていたという誇らしさもあったりして。



★★★本の解説

ただいま博多は天神にあるホテルから書き送ってます。

なぜか予定がくるって時間が空いてしまったん。今日の仕事は夜七時から。ふうむ。やんなっちゃうな〜。とんこつラーメン食いたいな。

5.「ヴァインランド」ピンチョン


ピンチョンにしては仕掛けが地味で、内容もビートニクスに対するレクイエム的な作品として読めるこれは、ちょっと往年のパワーに欠ける感じだった。
それでもあちこちの文脈で読むことができるピンチョン特有の異星人のような醒めた視線は健在で、なかなか楽しかったです。

6.「21世紀この国が買い、この国は売り」ジム・ロジャーズ


基本的にはこのリストにはビジネス本とかは入れてないんだけど、この伝説のファンド・マネージャーのバイク世界一周記は、冒険あり、株の話あり、世界情勢の話あり、と非常に刺激的なビジネス本です。
自分を取りまく社会に対する視線を少しばかり変えてくれる本。

7.「人間の絆」モーム


飽きない大作として一気に読むことができました。
自伝的色彩が強く、モームの世界観の成長が楽しめる本です。

8.「コインロッカー・ベビーズ」村上龍


とてもスリリングな小説でした。
やはり処女作に近い大作ものは、力の入れ方が違いますね。
非常にあくの強い登場人物が出てくるので、読後の印象はけっこう残ります。

9.「和田徹三全詩集」


昨年は詩集をあんまり読まなかったんだけど、これは例外。
とても形而上的で特別な言葉を持った詩人です。
これまでの地図にない新しい表現を創りあげることというものが、どんなものかを教えてくる詩集です。
笠井さん、どうもありがとうございました。

10.「フィールド・ノート」堤清二・辻井喬


現在は引退したとはいえ、西武グループ代表としてとても興味深い詩人であり、作家の言動を集めた本。
バブルというものがビジネスにおいて、あるいは文芸においてどんな形をもっていたのかを想像できる、貴重な記録。

11.「マリコ/マリキータ」池澤夏樹


再読本。
表題の南の国の物語は何度読んでもいい話です。

12.「活字狂想曲」倉阪鬼一郎


ホラーではなく、怪奇小説家の印刷会社で働いていた頃の奇行と悪口をまとめた、きわめて爽快な爆笑本。
とはいっても本好きでなければまったく笑えないだろうけど。

13.「海図と航海日誌」池澤夏樹


この人の読書のバランス感覚というのはうらやましいほど、知的でけれんがない。



★★本の解説

面白くなかったわけではなく、かといってすごく面白かったわけでもない本たち。
去年は本格的にアメリカの小説を読むようになりました。

これもインターネットの影響で、ほんとこれまで手に入らないような情報がそこらに転がってますからね。
今の学生ってやる気になったら、世界レベルで論文とか書けちゃうんですね。

14.「コスモポリタンズ」モーム


英国という国にはかつて強大な権力をふるうことができた植民地という国々があり、世界は英国を中心に回っていた。
その時代にモームが旅した世界のあちこちで出会った印象深い人々を描いている文章を集めた本。

雑誌の連載として注文された文章で、今で言うトラベル・ライターとしてあらかじめ取材して作られたもの。
それでも優雅さが残るのが、前時代としての遺産のゆえか。

15.「ワインズバーグ・オハイオ」アンダースン


こちらの小説は広いアメリカ大陸に生活する奇妙な人々を描いた掌編集といった構成で、多少人間の暗い一面を描きすぎているきらいはあるもののアメリカ人といった気質の一面を感じることができます。
モンロー宣言に象徴される、内向的なアメリカというイメージは、文学の中に多く痕跡として残されているみたいですね。

16.「迷える夫人」ウイラ・キャザー


アメリカの女性というのはかつてピューリタンの末裔ということもあり、非常に礼節を守り、堅実であり伝統的であったのですが、そうした女性を主人公に据えて、アメリカが産業革命により、大きく変貌していく姿をその女性に体現させていく小説です。
いまはアメリカではあたりまえの光景が、いかに歪められたものであるのかが、保守的な立場として実感できます。

17.「ジャガーになった男」佐藤賢一


世之介さんが押していた作家の文庫本を書店で見かけたので買ってみた本。
ぐいぐい読ませる力量はすごいですね。
エンターティメントとしては一流だと思います。
ただ個人的には最近、歴史に興味が無くなっているので、その辺りの感覚を刺激するような場面がいまひとつでした。

18.「日本ユース代表、サバンナを駆ける」後藤健生


ナイジェリア旅行記としても読める良質のサッカー本。
非常に客観的な視点から日本ユース代表を見ているので、ワールドクラスとの比較がわかりやすい反面、選手個々人としての姿は見えてこない。

19.「深層生活」モラヴィア


 なんとなくイタリア作家の小説が読みたくなったので。
とても映像的な描写が多く、映画を見ている印象が残りました。
たまにはいいかな。

20.「ほらふき男爵の冒険」ビュルガー


課題図書ですね。
これはドイツのものですが、言葉による遊びが中心になっていて、非常にヨーロッパ的な作品ですね。
面白いんだけど、ドイツ的?な堅くなさを感じた作品。

21.「骨は珊瑚、眼は真珠」池澤夏樹


とても文学している短編集。時間のむだにはならないです。

22.「犯罪文学傑作選」エラリー・クイーン編


文豪というか有名な小説家が書いた小説を集めたもの。
かなりいい線いってるチョイスです。
楽しめました。

23.「うずまき猫のみつけかた」村上春樹


再読ものです。
春樹さんのエッセイは何度読んでも落ち着けるので、私にとっては、良質の精神安定剤ですね。

24.「佐藤君と柴田君」佐藤良明+柴田元幸


読んでいる時は面白かったような気がするんだけど、読後、何が書いてあったんだっけ?といったような印象を残す本。
まあ暇潰しのためにはいいかな、ぐらいで、アメリカ文学に関しても出血サービスもないし。
やっぱ、読者はそれを期待してるんだけどな。



★本の解説

たいしたことがなかった24冊の本です。
それでも一応ランクをつけています。やっぱツェッペリンはいいからねぇ。

25.「永遠の詩・レッド・ツェッペリン・ストーリー」リッチー・ヨーク


けっこう詳細のデータを使って書かれているので、特に結成当時の貴重なイギリスやアメリカのロック・シーンとメンバーの軌跡を読むことができて楽しい本です。

26.「先に抜け、撃つのは俺だ」李鳳宇vs四方田犬彦


四方田犬彦が興味を持つ対象というのは常に先端的でかっこいいので参ります。
しかし映画なんかほとんど見てないのにこうした解説本ばかり読んでもストレスが溜まるだけですね。

27.「フィールド・インテンシティ」村上龍


サッカー、特に日本代表について書いた本。
読んだ時にはけっこう面白いと思ったけど、いまこうして思いだしても、それほど印象に残っていることは特にない。

28.「村上春樹、河合雅雄に会いに行く」村上春樹、河合雅雄


村上春樹が河合先生にカウンセリングを受けるような対談になっているんだけど、なんだかとても表面的な会話が続いていく印象を受けます。
サリン事件や神戸の大地震に対して文学として何ができるか、といったことが中心だったような気がします。田中康夫と浅田彰の対談で、このオウムに対する小説家の対応といった話で、村上春樹はずるがしこい的な表現をしていたけど、個人が対応できる範囲や考え方というのはどうしたって限度や制限があるので、村上春樹は非常に良い仕事をしたと思っている。こうしたことは小説家や文学者たちが全体的な視野からどんなことをしたのかといった包括的なレポートが為されないと、ただ単に批判だけが存在して何も残らないと思う。

29.「蹴球中毒」金子達仁+馳星周


フランス・ワールドカップの対談レポート。
思ったより過激ではなく、肩すかしをくったかな、の感じ。
今回はどうしても初参戦の日本代表の話になってしまうし、その意図で出版もされてますからね。
個人的にはクロアチアとかオランダの話が読みたかったな。

30.「ターザンの凱歌」バロウズ


久しぶりにターザンを読みました。
高校の頃、かなり読んだはずなのに、ストーリーをぜんぜん覚えていませんでした。
実はそれほど勧善懲悪な物語ではなかったんですね。

31.「死を迎える大司教」ウィラ・ギャザー


非常に大時代的だし、南方的なキリスト教の熱情を描いたものだったので、文化的になじめなかったです。
でも、アメリカなんかでは非常に評価が高い作品らしいです。

32.「サン・ルイス・レイの橋」ワイルダー


これも古めのアメリカ作家の小説です。
ひとそれぞれ様々な人生や考え方があるにも関わらず、あるとき壊れて落ちた橋にたまたまそこを通った人々が死をともにしてしまうといった、世界の複雑さを描いた作品です。

33.「翻訳家という楽天家たち」青山南


読んでいるとそれほど楽天家とも思えないんだけども。

34.「年刊SF傑作選・2」創元推理文庫


サイケな感じを期待して読んだんだけど、あまりに古くてなにも感じなかった。

35.「死鬼二十五話」インド伝奇集 ソーマデーヴァ


単調でありながらも重奏かつ複雑になっていくのは、インドの昔話の特徴なのかもしれない。
異文化の現代人が読んでも通じるものがあるというのは凄いことだと思う。

36.「歌謡界一発屋伝説」宝泉薫編


暇潰しには、いいですね。

37.「立花隆のすべて」文藝春秋編


これも暇潰しにはいいですね。
ファンにとっては、だけど。

38.「読書癖・4」池澤夏樹


この人の読書観というのは、あくまで読書というのは暇潰しに近い感覚として捉えているので、押しつけがましさがなくて、読んでいて気持ちがいい。

39.「青の時代」安西水丸


昔の頃の絵は、あんまり好きじゃないです。

40.「きみが住む星」池澤夏樹


日曜日の朝に読みたい本かな。

41.「むくどり最終便」池澤夏樹


ちょっと政治的なところが面白くないのかな。

42.「むくどりとしゃっきん鳥」池澤夏樹


この人はやっぱり小説を書いていた方がいいんだと思う。

43.「デビルマン・解体新書」


ファンにとっては必携品。

44.「飛躍 中田英寿」ピエールサンティ


これも未公認ながら、ファンにとっては必携品。

45.「1999年」高橋克彦対談集


毎度ながら対談者の横尾忠則画伯には脱帽されます。

46.「この本は怪しい!!!」


怪しい本というのは実は差別に満ちあふれている、といった内容。



W本の解説

47.「モニカ」坂本龍一+村上龍
48.「ロック大教典」渋谷陽一

解説としては、どちらも買って損したといった内容でした。
どちらも音楽関係ということは、関係があるのかないのか。
まあ、書き手が手を抜いてんじゃないの?と感じるような本でした。


2000.1.1

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