★★★★本の解説
1.『ムーンパレス』ポール・オースター 訳:柴田元幸 新潮文庫
去年の正月休みに読んで感動した本です。この作品でオースターの虜と
なったものです。
2.『グリンプス』ルイス・シャイナー 訳:小川隆 創元SF文庫
これはあたらしめのSF本ですが、60年代のロック・ミュージシャンを
文学的な心理小説として扱っているのが面白かった本です。それとこの本
を読んでドアーズのジム・モリスンとビーチ・ボーイズのブライアン・ウィ
ルソンに興味を持たせてくれて、彼らのCDを聴いてこれまた感動させて
もらった、かっこいい本です。
3.『約束された場所で』村上春樹 文芸春秋
年末に読んだ心に重たい本です。私と同じ世代の評論家などがオウムを論
じる際によく、「ひとごとのような気がしなかった」という言葉を口にし
ていて、これまでそうした発言には反発を覚えていたのですが、オウム信
徒の話を読んで、そうかも知れない、と思ったものです。
オウム教団に入っていった彼らの環境や背景、関心といったものを読んで
いると自分の過去のそれと大きく重なっている部分が多く、自分の体の一
部が起こした事件のように感じてしまいます。
しかしながら一方の体はこの教団に属した同年代の人々を拒絶する感覚も
強く、あの「精神世界」を共有した時代を忘れ去りたい、アンビバレンツ
な気持ちも浮き上がって来るのです。
その「一部とならない限り、理解することはできない」というフィヒテの
神秘主義ぎりぎりの言葉を頭の隅におきながら、判断保留をしつつもどう
したって関わらざるをえないケースを想定して読みすすめた本です。
4.『劇場』モーム 新潮文庫
さすがストーリー・テラーのモームと言いたくなるようなぐいぐい読ませ
る19世紀ロンドンの風俗を描いた傑作です。この主人公の劇団の中年女
性の心理描写がとても真にせまっていて面白いんです。
5.『武器よさらば』ヘミングウェイ 訳:瀬沼茂樹 平凡社
ヘミングウェイは学生の頃にはばかにしていたというか、歯牙にもかけな
かったのですが、たまたまこれを読んだらえらく感じてしまった本です。
戦争反対の趣旨とかよりもその細かくも骨太な描写に魅入られてしまいます。
★★★本の解説
6.『CARVER'S DOZEN』レイモンド・カーヴァー傑作選 Raymond Carver
訳:村上春樹 中公文庫
カーヴァーを全訳した村上春樹による珠玉と呼べる傑作選です。
人生の断片と消失をまるでジム・ダインのハートのように描いています。
7.『ダンス・ダンス・ダンス』 村上春樹 講談社文庫
去年は一時期おもに仕事で踊り続けるのが難しくなってしまった時期に読
み返したのですが、なかなかこの主人公のようには踊れない自分を発見し
てしまったのです。
8.『羊をめぐる冒険』 村上春樹 講談社文庫
そういえば精神世界にもこうしたパターンの神秘はあります。
9.『ストレンジ・デイズ』村上龍
おじさんとロックというのはどんな関係でいられるのか、といったことの
一様を見せてくれますが、小説としては失敗作です。
10.『カチアートを追跡して』ティム・オブライエン 訳:生井英考 国書刊行会
ベトナム戦争を描いた小説はいっぱいあるけど、こんなにファンタスティック
でありながら、じりじりしたリアリズムがある小説は珍しいと思います。
11.『心ときめかす』四方田犬彦 晶文社
このひとのものの見方というのは面白くて、原典をあたるよりも楽しめる
といった、世之介さんとは全く反対の感想をもっています。
12.『斜陽』太宰治 新潮文庫
久しぶりの再読でしたが、この独特のどこか音楽的な退廃さはたまりませんです。
13.『羅生門・鼻』芥川龍之介 新潮文庫
義務教育以来の芥川龍之介はとても新鮮で面白いです。
14.『辺境・近境』村上春樹
遠くはメキシコ、近くは讃岐のうどんを求めて、旅は続きます。
15.『剃刀の刃』モーム 新潮文庫
モームの屈折した感覚でみごとにアメリカ人というものを、あるいはその
宗教観を描きだした傑作です。