◆1995年度こんなの読んだよランキング◆55冊◆

★★★★本の解説

1.『ねじまき鳥クロニクル』(第1〜3部)村上春樹

1位の『ねじまき鳥クロニクル』がダントツなのは、個人的な理由による (基本的にみんなそうだけど)のが、大きいです。それは去年パソコン通信を 始めるまで私は失業中の身でありました(ということは再就職先が見つから なかったら、このボードにも現れなかったことでしょう。それが幸か不幸かと とるのは、読んでいる貴方次第です)。それで続きの第3巻がそのうち出るよ、 という噂を聞きつけ暇も手伝って1巻から読み直したんですが、そういえばこの 主人公も失業中だったんです。あまりに偶然な一致に(おいおい)話の内容が 体に染みこむ染みこむ(笑)。私にとってやっぱり小説はこうでなきゃいかん、 という理想的な本です(ちょっと誉めすぎ)。

幻想的要素が強いこの物語は幻想ではなく、現実世界を描いたものですね。
ただ現実と触れる角度がこれまでの小説とは違うの ではないか、と。常に主人公の世界はもろく不確定な世界を形成していきますが、 それは主人公が不安定なのではなく、世界の方が不確定なのです。出来事に対して 主人公はなるべく不確定な要素は除いていこうという意志を持ち解決を計ろうと します。

それでも世界の方は確定された可能性に対して必然的な結果を与えません。 これは当然であり可能世界のなかの一つだけが選ばれるのは、とても現実的なことです。
主人公は枯れた井戸に潜ることによって事物の余剰物を取り除いていき、その最後 に残るはずの必然を得ようとしますが、うまくいきません。それには事物の結果 は必然である、という前提が崩れていくからだと思います。過去の出来事つまり 事物の結果自体も常に変化している、生成しているのではないか?過去は起きて しまったことだから、過去はひとつしかないという常識は「世界」の側には通用し ないのではないか?という気がしています。物語中に不意に登場してくる少年の夢 がそれを暗示しているのではないか、と私は考えています。
夜闇の庭で起こる不思議な出来事が変容していくのが、世界の不確定性の象徴では ないかと・・・。

ちょっとまとまりがなくなってきたので中断します。
この小説とはまたつき合うことがあるはずなので、考えがきちんとした時に また書いてみたいと思います。

2.『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(上下)村上春樹

2位も再読でやはり失業中にひとりで旅に出ている間に読んだので、すごく 印象深い本でした。しかも一回目読んだときにはつまんねえ本!と思って投げ 飛ばしたものだったので、もしかしたら旅に出て成長したんじゃないのか(笑) と勘違いさせてくれた本でした。

3.『「挫折」の昭和史』山口昌男

3位が実質的な去年出版された中でのベストでした。
映画「ラストエンペラー」の試写会でジョン・ローンや坂本龍一と話をしていた 時に、満州に流れていった昭和モダニズムを書いてみようと思いついた作品だそう です。
満州で開花した文化を石原莞爾を中心としてその知的水脈(つまり石原の友人 とか彼とつながりのあった文化人など)を山口昌男特有の楽しい語り口で次々に 発掘させられていく光景は、本当に活字を追っていくのは楽しいな、と思わせて くれました。

石原という軍人は漫画の『虹色のトロッキー』でおもしろそうな人だな、 と思っていたのですが、山口さんが表現する「タダイストのような将軍の肖像」 や「ラブレーを読む将軍」などが、とてもいい得て妙のこのメタ軍人の近傍には 漫画とは違うとても理知的な感じで興奮させられました。

満州に「挫折」していった知的水脈をたどっていくこの昭和編と、今読んでいる 最中の続本の明治・大正編である『「敗者」の精神史』は、既に近代日本の歴史 人類学の金字塔という評価になっている模様です。

4.『パプリカ』筒井康隆

4位は、私にとって今のSFっていうのはどうしても精神世界に近いものを 好んでしまう傾向があって、この「パプリカ」がその最たるものです。
これは『夢の木坂分岐点』のような迷宮文学作品とは違って、またスリルが あってワクワクするサイコSFの頂点です。

5.『はれた日は学校をやすんで』西原理恵子

5位はあちこちのベストでも人気になった漫画です。とにかくノスタルジー がいっぱい詰まった話ばかりで、主人公は女の子なのでそんなに感情移入など できるものではないはずなのに、けっこう目頭がうるうるしてしまいます。
何故か私はこれを読んで映画の「キューポラのある町」を思い出していました。
この映画の吉永さゆりはかわいいです。



★★★本の解説

6.『真昼のプリニウス』池澤夏樹

1位と7位の池澤さんは一冊ぐらいは四つ星に入れようかなと思ったのですが、 バランスを配慮してこちらの方でのトップに据えました。
やはりこの人の魅力は理系の強みといったところにあるのでしょう。
割合初期の『真昼のプリニウス』は女性の火山学者が主人公の「地球とはどうい うものなんだろう?」ということに想いを馳せてしまう、とても上質の小説だと 思います。

7.『アジアン・ジャパニーズ』小林紀晴

『アジアン・ジャパニーズ』はこれまで見えていなかった若者の姿を写していると思いました。

8.『カジュアリーナ・トリー』S.モーム

モームの本もおもしろかったです。

9.『ソリトンの悪魔』(上下)梅原克文

現在時点のSFとして、とても健闘していると思いました。もちろん、とっても面白いし。

10.『まあじゃんほうろうき』(1〜4)西原理恵子

西原理恵子は私にとってのギャンブル教本みたいなものです。 ギャンブルに負けたときの慰めにもなります。

11.『中島敦全集・1』ちくま文庫版

中島敦は「山月記」や「文字禍」などのスタンダードが入っているもの で、これらはもう何度か読み直しているのですが、毎回違う楽しみが見つかると いう私にとってクラッシックです。

12.『夏の朝の成層圏』池澤夏樹

13.『夜のくもざる』村上春樹+安西水丸

14.『朝のガスパール』筒井康隆

15.『羊をめぐる冒険』(上下)村上春樹

『羊をめぐる冒険』はこれで三回目の読み直しだったのですが、 初めてラスト近くで泣いてしまいました。

16.『ダンス・ダンス・ダンス』(上下)村上春樹

17.『チャンセラー号の筏』J.ベルヌ

ベルヌ。集英社文庫でコレクションが始まったので何冊か買ったうち の一冊。一世紀以上も経っているいわゆる漂流冒険物語なのですが、けっこう ぐいぐい引っ張られました。そうそう、『夏の朝の成層圏』池澤夏樹も 漂流ものでした。

18.『寝園』横光利一

横光利一は、ちょっとデカダン。

19.『スキズマトリックス』B.スターリング

『スキズマトリックス』はW.ギブソンで挫折したサイバー・パンク にもう一度興味を持たせてくれたSFです。とても複雑な未来世界なのですが、 かなり示唆に富んでいて、ビートニクスの正当な嫡子という感じがしました。

20.『雨瀟瀟・雪解』永井荷風

永井荷風が最後というのはちょっと辛い点。本当は1位でもいいんだけど、 静かな本だから目立つところには似合わない。



★★本の解説

21.『聖なる酔っぱらいの伝説』フロート

22.『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹

23.『井上友一郎集』 筑摩書房版

だんだん順位付けがあいまいになってきます。
井上友一郎は昭和の忘れられた作家です。 水商売で働く女性を淡く描きます。一種の花柳小説かな。

24.『特集=ベルクソン』現代思想

25.『富豪刑事』筒井康隆

『富豪刑事』は読み物としてとてもおもしろかったです。

26.『年間SF傑作選・7』J.メリル 編

『年間SF傑作選・7』は古本屋で見つけた創元SF文庫ですが、これは めっけ物でした。私の好きなフラワーチルドレンにもろ影響された話がいくつ かあって楽しめました。このシリーズは波長が合いそうなので古本屋で見つけ て集めようと思っています。

27.『君主論』マキャベリ

『君主論』は功利主義に興味があって調べてたら、おもしろくて最後まで 読んでしまいました。功利主義というより人生読本です。

28.『アルゼンチン短編集』コルタサル 他

『アルゼンチン短編集』はなるべく読もうと思っている南米ものです。
なかなかはまりずらいジャンルなのですが、この短編集はけっこう 楽しめました。なんとなく罵倒する言葉が多いような気もしますが、 やはり血の性なのでしょう。

29.『ロスト・ソウルズ』ブライト

30.『越境する世界文学』文芸スペシャル

31.『昭和ミステリー大全集』(上)新潮文庫

32.『ワタシnoイエ』荒俣宏

33.『二色人の夜』荒俣宏

34.『虹色のトロッキー』(1〜5)安彦良和

35.『夜叉ヶ池・天守物語』泉鏡花

36.『間抜けの実在に関する文献』内田百間

37.『グレート・ギャッビー』フィッツジェラルド

38.『ツングース特命隊』山田正紀

39.『分析哲学とプラグマティズム』岩波書店

40.『眩暈』島田荘司

41.『楽園伝説』半村良

『楽園伝説』はなんとなく古き良き時代の日本SFが読みたかったので、本棚 に眠っていたものを引っぱり出しました。

42.『詩・書簡集』ニ−チェ

43.『箱男』安部公房

44.『特集=サイード』現代思想

45.『死国』坂東眞砂子

46.『空洞地球』ルーディ・ラッカー



★本の解説

47.『トパーズ』村上龍
48.『ラファエロ真贋事件』イアン・ペイズ
49.『黒い時計の旅』S.エリクソン
50.『赤姫秘文』角田喜久雄
51.『巨人列伝』別冊宝島
52.『百億の昼と千億の夜』光瀬龍+萩尾望都

なんだかほんとに印象が薄いです。そうなのね、という感じ。
ただ『巨人列伝』は明治からの日本の奇人・変人・偉人的な学者とか文化人を 集めたものなので備忘録としては活用できますね。
ま、要はこの中の紹介が通りいっぺんでそんなにおもしろくなかったという ことです。



W本の解説

53.『タキモトの世界』久住昌之
54.『重力が衰えるとき』J.A.エフィンジャー
55.『死神伝奇』早乙女貢

どうしてこんな本を最後まで読んでしまったんだろう、という本です。
本当のワースト本は途中で放り投げてしまった本たちになるんですけど、 それを書いているときりがないので。

『タキモトの世界』はタキオンとはぜんぜん関係ありません(笑)。
滝本という無名?の写真家に密着してその生活とか言動をまとめたもの です。そんなに奇矯な人ではなく普通に生きている人なので発想がおもしろい なと思って読んだら、これがぜんぜん普通で(笑)面白くなかった。

『重力が衰えるとき』はサイバーパンクなので我慢して読みました。 つまんなかった。

『死神伝奇』はストーリー単調の戦国時代の忍法ものでした。つまんないだけど、 ああ、とか うふん とかの描写がたくさん出てきて、最後まで読まされてしまい ました。


1996.1.1

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