『ゼウスガーデン衰亡史』小林恭二

ハルキ文庫


【紹介】
うらぶれた場末の遊園地、「下高井戸オリンピック遊戯場」は双子の天才、藤島 宙一・宙二兄弟の卓越した経営手腕により急成長を遂げ、「ゼウスガーデン」と 名を変えて、ありとあらゆる欲望を吸収した巨大な快楽の王国となってゆく。
果てなき人間の欲望と快楽の狂走を20世紀末から21世紀までの百年という壮大なスケールで描く快作長篇。

【感想】

タイトル通り、「ローマ帝国衰亡史」のパロディである。
歴史の中身は20世紀末から21世紀末にかけての日本を舞台とし、主役はゼウス ガーデンという遊園地を基盤とするコングロマリットだ。
双子の天才兄弟が下高井戸にうらぶれた遊園地を開園する。
それが大当たりし、どんどん周縁の土地を買収しては遊園地を巨大化させていく。
それは人間のあらゆる快楽を提供する空間となり、世界各地から観光客が押し寄せ る一大遊技施設となる。
さらに時は進み、双子の天才兄弟がただの凡人となってしまい、さらには行方不明 となり、遊園地経営は元老院という役員組織に移行する。
ここからは権謀術数の世界が繰り広げられていくことになる。まあ今の外務省の公 金横領もかくやの世界である。
さらに関東に大震災が起きたことが契機でゼウスガーデンは日本から自治権を獲得 し、事実上の独立国として発展していく。そして始まる帝国の衰亡。

いわゆるパクス・ジャポニカと呼ばれた80年代の日本を揶揄した物語である。
バブル経済がそのまま継続していけば当然こうした快楽産業が巨大化する可能性は あったと思わせるものはある。
それほど日本の80年代というのはおかしな時代だったということなのだろう。
著者はそうした雰囲気をうまく物語の中に取り込んでいて、その浮かれ具合をその まま強引に歴史化しているのだ。
悪く言えば非常にいいかげんな物語なのである。
こうした未来ものというのは著者独特のディティールがものをいう場合が多いのだ が、この物語にはそうした技巧は全くなく、乱暴に帝国の歴史を講釈していく作者 がいるだけなのだ。まったく。
自分が書きたいことだけ書いて、整合性やらつじつま合わせといったことを放棄し ているのだ。
いいかげんハッタリばかりの記述がえんえんと続いていくと、まあいいっか、てな 感じでどんどん読まされてしまう。へんな小説だ。

巽孝之が解説の中で筒井康隆がこの小説を絶賛したと書いているが、まあ「虚航船 団」よりは面白ろかったですね。
巽孝之はこの小説について、80年代「高度資本主義日本の現在がその内部奥深く で無数に膨張させていた可能性にほかならない」と書いてるけど、ちょっと甘いん じゃないてな感じがする。巽の書評って好きだけどさ。
この小説にはグローバル化という視線がないんだよね。
そういう意味ではバブル期の日本にもそんな視線はなかった。
まあ歴史に忠実な物語ということか。
確かに米国の経済力が弱かった80年代だったらこうした快楽帝国の発展もありえ たのかも知れないけど、あくまで「宇宙戦艦ヤマト」のように、なんで日本人ある いは日本的な人物しか登場しないの?といった物語の構築に対するナメ方が気にか かってしまうのだ。
現代日本の小説を読んでいて不満に思うのはそうしたひきこもりのような、まるで ダンジョンゲームのような視線が多いってことだ。


★羊男★2001.12.2★

物語千夜一夜【第七十二夜】

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