『死を迎える大司教』ウィラ・キャザー
訳者:刈田元司,川田周雄 出版:現代アメリカ文学全集/2 荒地出版社

【紹介】"Death Comes for the Archbishop" 1927
19世紀半端、ニュー・メキシコの砂漠地帯に、布教のためヨーロッパからやってきた二人の神父が、孤独と苦難に堪えて使命を達成し、新築された大聖堂の中で死を迎えるという一種の歴史小説。

【感想】

この小説はキャザーの作品の中で一番有名で読者も多いようです。
確かに新大陸への英雄的な布教の仕事を描く内容はわかりやすく何を書きたいのかも明確なんだけど、キリスト教になじみのない私にとってはここに描かれているニュー・メキシコの砂漠のように退屈でした。まあキリスト教の教理がわからないというよりは新大陸への伝導への献身的な熱意がよくわからなかったんですが。
その絵画的な風景やロマン的な人物を描く筆致は一流だとは思うけど、そのテーマに興味が集中できなかった小説でした。

ただ、そのニュー・メキシコを描く描写には惹かれる部分が多く、投資家であり冒険家のジム・ロジャーズが「ニュー・メキシコはかつて合衆国がメキシコから略奪したのだから、いずれ返すことになるだろう」と書いていたように、現在でもスペイン語が日常的に使われているこの地域を、非常にラテン的、あるいはスペイン的な光景、そしてナバホのインディアンをはじめとするアメリカの原型的風景が混沌とした、現在のアメリカではないアメリカ的な植民地の光景として描いている筆致に興味を抱くことができました。

つまり、舞台もテーマもアメリカ的でない、例えばスペインの作家がラテンアメリカを舞台に書いたような物語を甘く薄めたイメージ色が強い小説で、エキゾティックな要素も強いんですね。
この感覚というのはこの物語の舞台となっているサンタ・フェという地名を日本で有名にした宮沢りえの写真集のように、荒野でもなくリゾートでもなく、中途半端な砂漠を旅しているようなものに近い、といったらいいのかな。

キャザーはこの小説を書く前に、この地方を旅して様々なカトリック教会の話を聞いて、この作品を書く動機と背景を持ったようです。
ちなみにこの小説のタイトルはホルバインの描いた「死の舞踏」という絵画から取ったそうです。

★羊男★1999.11.24★

物語千夜一夜【第七十一夜】

home