『黒猫・黄金虫』エドガー・アラン・ポー
訳者:佐々木直次郎
出版:新潮文庫
【あらすじ】
発作的に殺した黒猫の呪いをうけて転落していく自己破滅型の病的心理をもつ男の姿を、恐怖と戦慄のうちに象徴化した「黒猫」、隠された伝説の財宝をめぐる怪奇的推理小説「黄金虫」、暗鬱と荒涼と、心を凍らせるような幻想に満ちた散文詩風の短編「アッシャー家の崩壊」など5編を収める。近代の新しい美と戦慄を創造し、劇的で悲惨な短い生涯を送ったポーの特質を伝える短編集。

【感想】
十数年ぶりにポーを読みました。
ポーは苦手で、以前読んだ時は河出書房の文学全集の中の一巻でメルヴィルとカップリングされていましたが、ポーはつまんなくて、参りました。メルヴィルの「タイピー」は面白かったけど。
なんか暗くてとっつきにくいですね。
かなり怪奇小説というのは好きな方で創元推理文庫の「怪奇小説傑作選・全5巻」は面白く読んだ記憶があるけど、同じ文庫のポー全集は手が出ませんでした。

今回読み返してみて思ったのは、非常に個人的な物語が多いということです。最近少し古めのアメリカ作家の小説を読むことが多いのですが、彼らは非常に時代的というか当時の世界観を含めて多くを客観的な言葉で語ろうとします。しかしポーは推理小説もSFも個人的な意識の中に閉じた言葉で語りかけてくるのですね。ストーリーであるよりは非常にフィクション的要素が強い小説で、これが近代文学と位置づけられている所以なんでしょう。

しかしこの「黒猫」や「アッシャー家の崩壊」の物語の暗さはなんか救いがないですね。というか、よくわからないです。夏目漱石なんかの小説を読んでいてもたまに思うのですが、なぜ物語の主人公なんかがこうした陰惨な思考になっていくのか、迷妄な行動に突き進んでいくのか、その因果関係を描いていないので、よくわからないんですね。
現代だと仕事でストレスが溜って犯罪を犯したりすることをきちんと説明したりしますが、そういった衝動をほとんど説明しないで、物語だけが進行していく。なんか鮒落ちなかったりします。ポーはまだある程度、読者がいると思うけど、やはり時代背景とかをじっくり読み込まないと本当の面白さのようなものが見えてこない、過去の作家という感じが今回読んでしました。

ただ「黄金虫」は面白かったですね。こういう古典的な推理小説はなんか非常に明るいところがあります。黄金がきちんと見つかるからかも知れませんが、現代の推理小説の人間関係の心情的なもつれを読み込ませる、みたいな部分がなくて、その分、非常にロマンを感じさせてくれます。
今回この文庫の解説を読んで知ったのですが、ポーという人はとても悲惨な人生を送ったのですね。破滅型の文学者のイメージの一翼を担っていたんでしょうね。ちょっと近づきたくない世界ですね、いまのところ。
ポーはあんまり読んでいないのですが、今回この小説を読んで、やはり詩の方がいいなと思ったりもしました。


★羊男★1999.11.23★

物語千夜一夜【第六十五夜】

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