『コスモポリタンズ』サマセット・モーム
瀧口直太郎訳 ちくま文庫

【紹介】
 「これらの物語を面白いと感じてくれること以外には何ひとつ読者に要求しない」モーム

舞台は、ヨーロッパ、アジアの両大陸から南島、横浜、神戸まで。故国を去って異郷に住む国際人の日常にひそむ事件の数々。
コスモポリタン誌に1924〜29年に連載された珠玉の小品30編。

【感想】

「コスモポリタン」というニューヨークの雑誌に連続して掲載された掌編を集めたもので、この時代にはこうした読みきりの雑誌の注文に応じて短編を提供するという試みは斬新なものだったようです。

いまではあたりまえのことですが、こうした商業的な要求に応じて物語を書き飛ばすといった資本主義の現代的な文学の先鞭をつけたのがモームであったことは、実はあまり知られていないようです。
それ以前には原稿枚数が決まったタイトな短編というのは存在せず、あくまで著者の自ら文学的な要請で書かれていたんですね。あたりまえのことなのかも知れないけど。

それでもこの作品を読むとひじょうにオチがよくできていて、それでもって異国情緒が楽しめ、しかも文学的なところが読みがいがあります。この職人的でちょっと神経質な短編集というのはこのモームぐらいでしか味わえない、特別な感慨をもたらしてくれます。

世界各地を旅したモームならではのエキゾチックな光景と人間描写は、このコンパクトな本の中でもいかんなく発揮されています。


★羊男★1999.3.28★

物語千夜一夜【第五十六夜】

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