『赤い小馬』ジョン・スタインベック
新潮文庫

【紹介】The Red Pony - 1937
サリーナスの谷間に育つ多感な少年の、子馬や老人との出会いと別れの哀歌を綴る。4つの短編をまとめたもので自伝的要素が強い。

【感想】

これは自然派というかネイチャーというか(一緒だって、笑)、私が好んで読んで きた小説とはぜんぜ〜ん違うの。内容から作りから文体からして全くちゃうねんな。 このスタインベックに比べると私が好きなのはちまちましたというか盆栽的という か、いわゆるミニマルなんだけど、これはワイルドですよね〜。ほんと西部という かウェスタンというか(いっしょだってば、笑)野暮で素朴ですね〜。

内容に入る前についつい生まれた土地柄というか育った環境に思いを馳せてしまう 小説だったりしますね。どうも北海道とか、広いところ(私のイメージとしては) で育つとこういう小説に親しみを感じるんでしょーねー、などと思ってしまいま す。いわゆる固定観念てやつでしょうか。私なんか生まれつきの千葉県民ですの でせこくてちまちました感覚からどうもこうした大雑把な、いやもとい(笑)、 ワイルドな感覚に鈍いところがあったりするのですね。

そうそう内容ですね。すごいと思ったのは自然の描写ですね。山や川の息吹、 動物の動静、木々のざわめきといった風景が肌に突き刺さるように伝わってくるん ですね〜これが。泡まで(そりゃちげう、笑)。

ジョーディは、馬小屋のほうで梟が二十日鼠を追いかけているのを聞いた。
それからまた、果物の木がその枝で母屋の壁をことことと打ちたたくのを聞いた。
彼は、牛の一頭が鳴いているのを耳にしながら、眠りに落ち入った。
(新潮文庫P17)

現代では生まれてこない種類のイマジネーションですよね。また、文体が叙事詩的 なことも魅力ですね。ここには現代人の苦悩のような「内面」なんてものがなくて 荒々しい自然しかないのですね。肉体的にも精神的にも。たぶんこの19世紀?的 光景にいきなり放り出されたら私はきっと生きていけないだろうなあ(笑)。
Born to be Wild.なんてCMを通してでないと受け入れられない新人類ですし・・・

アメリカというものに対しては異文化などというような大文字の言葉を使うことは 恥ずかしいような、それほど身近な外国にはなっているんだけど、実際はスタイン ベックが書いているような光景がまだごろごろしているんでしょう、アメリカは。 あるいは自分がそう思いたいのかもしれないけど。

でもやっぱり、例えばポール・オースターなんかと比べると遥かな断絶がくっきり と浮き上がってきますね。オースターはやはり私達から見ても親近感が強いし。 ただ表現のテリトリーは同じでもオリジンが違うとも言えるかな。 村上春樹の表現(表出と言った方が近いけど)は、夏目漱石が必要だったと思える (日本語を作るという意味も含めて)のと同じように、オースターにはスタイン ベックのように強靱な現実への遡及力があらかじめ必要なものとして備わっていた ように思えたりします。

さてー、なに書いてるんでしょう(笑)。
そうそうこの小説の主人公のジョーディね。普通だと主人公って悲しいこととか 辛いことを乗り越えて成長していくんだけど、あからさまにそうしたことを書か ないスタインベックというのは、いいですねーしぶいっす。大衆に迎合しない レッド・ツェッペリンみたい(異議ある人もいるでしょうけど、笑)。


★羊男★1997.9.22★

物語千夜一夜【第四十九夜】

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