『サン・ルイス・レイの橋』ソーントン・ワイルダー

訳者:伊藤整 出版:現代アメリカ文学全集・1 荒地出版社


【感想】

ワイルダーという今はあまり読まれることのないアメリカの古典的な作品です。
1928年にピュリッツァ賞を受賞しているそうです。

舞台はスペイン植民地時代のペルーで、物語はこの題名のサン・ルイス・レイという吊り橋の墜落によって5人の命が奪われたことに始まります。
ある修道士がこの5人の落命をめぐって、神の摂理を立証しようとして、この5人の生前の生活を調査した記録が独立した短編風の物語として語られています。
そして最後には吊り橋の墜落によって物語がそれぞれ閉じられてしまう、といった構成になっています。

こうした物語は冷戦時代、核戦争によってそれぞれの世界が無理矢理終わらせられてしまう、といった数ある物語と共通したものですが、違うのはどことなく小説というよりも観念的で商況的な色合いを多く含んでいるところが独特だと思います。

スタイルも古典的で、思索的な深いキリスト教、あるいはラテン文化の教養に律された、孤立的な作品だと思います。


★羊男★1999.10.3★

物語千夜一夜【第四十三夜】

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