講談社文芸文庫
これも『寝園』同様、強力な知性でいわゆる「魔都上海」の魅力を充分以上
に描写している作品です。
おそらく作家自身もこの小説の主人公は「魔都上海」と
位置付けて書き上げたのではないか、と想像して違和感のないエキゾチックかつ
エキセントリックな、まるで冒険小説の帯につけられるようなコピーがづらりと
並んでもおかしくない!すごい出来栄えです(笑)。
この作品はもっと有名になってもおかしくないと思うんですけど、ジャンルを
挙げるとすればこれはまさに、サイバーパンク!であります。
始祖ギブソンと煽導者ブルースターリングの傑作合作歴史改変SF
『ディファレンス・エンジン』に優るとも劣らない長編でしょう。
無政府状態の上海を舞台にしたロードノベルの要素や植民地の革命運動を描いたり
しているが、何故か文学なのである。
その秘密はおそらく吉本隆明のいう「世界視線」を先取りしていたためであろう、
と思われます。SF映画『ブレードランナー』以降の映像に影響を受けた表現、
簡単にいうと世界、あるいは地球を鳥瞰的に眺める視線の延長上の思考、 新宿高層ビル群を象徴とした巨大なエネルギー態としての高度資本主義の思考を
「世界視線」(ほんとはもっと違う表現なんでしょうが、(笑)) とするのですが、その原型、原石のような小説といって良いでしょうか。
はじめてこれを読んだ時には、日本にもこんなすごい小説があったんだ、という 驚きでした。とにかく、陰謀渦巻きめくるめく上海の視線が熱く感じられます。
結局、凄いすごい以外のことは何も言っていないような気がしますが、 私はこの小説を読んだ後、たまらなくなって会社に辞表を出し、現実の上海に旅立って行ったのでありました。おわり。
物語千夜一夜【第四十夜】