『ソリトンの悪魔』梅原克文
朝日ソノラマ

【紹介】
本年度最高の話題作!海洋情報都市を襲う突発事故!
惨劇の陰に蠢く未知なる物体の正体は!?
(帯より)

【感想】

まずはとにかく楽しめたSF小説でした。

やはり本人があとがきで書いているようにこの小説の成功は舞台を海洋に 設定したところにあるのでしょう。
まだまだ未知の世界を残す深海。冒険 小説としての骨組もよくできています。
全編がほぼ深海あるいは海上での話です。上巻で唯一出てきた総理府官邸 での密談のあたりで『沈黙の艦隊』のようなストーリーになっていくのかな、 と思ったらこれがファースト・コンタクトものでした。そのかわり物語世界 はボリュームの割にはこじんまりとしていて、主人公たちの危機を描くローラー コースターノベルでしたね。
準ヒロインを中国人女性に据えたのも物語にメリハリが出てうまいなあ、 と感心しました。

とにかくおもしろかったのですが、気になったのはホロソナーというハイテク 機器を使って深海を手に取るように見れる「立体音響視界」のことなんですが、 基本的には視力を使わずに聴覚を増強させるわけで、これにはかなり記憶力が 関係するのではないんでしょうか?
一度目で見たことがある状況、対象、物体 でないと音響知覚からくる情報も想像力として組み立てられないような気が して、果たしていままで見たことのない対象に、立体感覚を喚起させることが 可能なのかが、引っかかってます。
そういえばホロフォニクスのレコードというのをかなり昔(ビニール盤だから) 買って聴いたことがありますが、確かにヘッドフォンで聴くと凄い迫力があった のを覚えています。

小松左京でいえば『首都消失』にあたる、という感じがしましたね。
というのは、 なにぶん「ソリトン」の解析には力を入れていないといったところが、「首都消失」 での「雲」と同じに謎のままで終わってしまうという、その辺りに欲求不満を 感じました。


★羊男★1995.12.30★

物語千夜一夜【第三十五夜】

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