『人間的要素』サマセット・モーム

「人間的要素」モーム短編集10 龍口直太郎訳 新潮文庫(絶版)


■短編集■

【感想】

ここでは英国の社交界に生息している人々の恋愛や結婚などを描いた短 編集です。社交界という私たちには想像することが難しい世界の中で起 きる出来事や変な人々の話を読んでるのは、一種よくできたファンタジー の趣きもありますが、そこはやはりモーム一流の観察眼が効いていて、 人間の行動や感情の不明さを味わうことができます。

「ジェーン」

この主人公のジェーンは51才の未亡人。このジェーンが27才年下の 若者に恋われて結婚するのですが、お金目当ての若者はすぐに離婚する だろう世間の噂とは反対に、仲の良い夫婦になり、その後、ジェーンは 社交界の花となって。。。
「人が独断的な予言などすると、ついその当てが外れるのを願うのが人 情の常である」
モームにはときどきこうしたウィットに富んだ表現にあたることができ て、楽しいです。
ラストのどんでん返しに、やられた〜という感じの短編です。

「人間的要素」

ロンドン社交界の花形であった女性に長年恋している役人であり作家の 男が彼女の後を追っていく話なんだけど、彼女のことを知るうちに実は 下層階級の運転手と彼女が愛し合っているのに気付いて、幻滅していく 話。時代が違うとこんな話でも面白かったりする。

「美徳」

「美徳なんて犬にでも食われるがいいさ」
というフレーズは美徳などとは程遠い女が、語り手であるモームに自分 の下世話さを指摘された際に「この世には美徳というものがあるのよ」 と女が言った言葉に対して、モームが返したフレーズです。
かっこいいですよねえ(^^)
この話はマージェリーという中年の人妻が若い男に夢中になるのですが、 その間、夫に自殺され、結局は若者にも捨てられてしまう、といういま ではTVドラマでもやらないような、くだらない話をぐいぐいと読ませて しまう、モームの筆力はほんとすごいです。


★羊男★1998.12.12★

物語千夜一夜【第三十四夜】

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