『最後の物たちの国で』ポール・オースター
訳者:柴田元幸  発行:白水社

【紹介】
鬼才オースターが描く二十世紀の寓話。
物が物としての形を失い、人が人の心を失ってさまよう国で、アンナはひとり兄を捜し求める・・・(帯より)

【感想】

この物語の雰囲気はとても暗いけどいいですね。
ひたすらはまり込んでしまいました。
ただ実際始めの50頁までは読むのがけっこう辛く、簡潔なんだけど冗長な(どんなだ、笑)この不可解な国の情景描写がえんえんと続いていきます。

むかし山尾悠子という幻想文学系の小説家がいて好きだったんですが、その人とこの淡々さがよく似ています。
そしてこの50頁を乗り切ると、なんともいえない不思議な感覚の物語が始まります。
たぶん現代という感覚を、一切の形容詞や副詞を取り除いたら、つまり不要なものをそぎ落として表現するとこんな世界像が描けるのかも知れません。
まるで闇夜で見るキリコの絵のような感覚です。

また、なんとなく「アキラ以後」という感想も持ちました。
「アキラ」というのはあの大友克洋のマンガですが、あの崩壊感覚のあとに出現する光景というのが、この「最後の物たち」のような終末的な世界観なのかもしれません。
そしてこの光景は村上春樹の「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」と通底していると思います。


★羊男★1997.2.8★

物語千夜一夜【第ニ十八夜】

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