『八甲田山死の彷徨』新田次郎

新潮文庫


【紹介】
日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験が強いられた。
神田大尉が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき大隊長が突然“前進”の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。
少数精鋭の徳島大尉が率いる弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。
2隊を対比して、自然と人間の闘いを迫真の筆に描く長編小説。

【感想】

まず一言「おもしろかった〜」。映画化になったのがわかりますね。
初めはとってもわかりにくい設定というか、滑り出しが硬くて、果たして最後まで 読めるんだろうか?っていう不安があったんですけどねえ。

ほんとこの人の本は初めて読んだんですよね。
先入観として「山」の作家というの が私の頭の中にあるので、高校の頃、山岳部の人たちとは仲良かったものの「一緒 に山いこう」と言われてもへらへら笑って断っていたぐらいに、ぜんぜん興味がな い分野でもあって図書館や本屋に行っても触ったことすらありませんでした。

前置きが長くなりましたが、この本のテーマの軍国主義というか封建主義は辟易と するものがありますよね。
特に後半で軍部が雪山を案内する地元民の扱いというのは許せないものがあります。
こうした強権的なヒエラネキーというのは、会社社会 にも根強く残っているところがあって、うちの会社の役員なんかも権威をかさにき た屁のつっぱりみたいな人間がいて、ほんと嫌になります(笑)。

まあ、コンピューター室に閉じ込めて凍死させるなんてことはないから、ましです けどね(昔のコンピ室って1時間も入っていると肌がひりひりしてきたっけ、笑)。
たぶんこの本の中では、奇跡的に生き残った軍人の意志の強さがキーで、管理職の サラリーマンなんかが「自分もこのぐらい頑強な意志と適切な判断力をもたないと」 な〜んて思ったりするんだろうけど(私も読んでてそう感じたから、笑)、それよ か、どうにかこうにか体裁なんてどうでもいいから生き延びていく地元民の方が好 きです。

人間は言葉通り「かっこよく」生きる必要なんてどこにもないのですから。
人間は偉くなんない方がよいのう。(^^)


★羊男★1997.7.25★

物語千夜一夜【第ニ十五夜】

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