『フランケンシュタイン』メアリー・シェリー

"Frankenstein" Mary Shelley 訳者:森下弓子 出版:創元文庫


【紹介】
若く才能あふれる科学者フランケンシュタインは、死者を甦らせることに情熱をそそぐ。
しかしその結果、生み出されたものは世にも恐ろしい怪物であった。

【感想】

とにかく名作というか大時代的な古典作品ですね。
これって作中にも『失楽園』(もちろんミルトン。まったくもって不倫ものにこんなたいそうなタイトルを使われたミルトンは日本人に偏見持つだろうなあ、笑)をはじめとしたキリスト教の生命観とか罪悪観などの正統的な本歌取りといった観がありますね。たぶん同時代の滝沢馬琴も中国ものに対してこんな感覚を持ってたんじゃないかなあ。

日本だとこのフランケン、日蓮上人でしたっけ?確か戦場の屍を法術でかきあつめて女性を作ったなんていう話がよく比較されますけど、このフランケンのような生物学的な幻想とはちょっと違うかな、ていう感じ。
けっこうダーウィンのおじいさんの本なんかをシェリー夫人は読み込んでいたりして、よく勉強して作ってるという意味ではオールディーズがSFの元祖として挙げたのにはうなずけるものがありました(スペキュレイティブ・フィクションという意味で)。

しかしまあ原作を読んで驚いたのが、フランケンはインテリだったということですね。
しかも長い時間をかけて自分で知恵を習得していったエピソードなんかは、なかなか涙ぐましい。ほんと映画とか漫画でのフランケンというのは別なキャラクターとして発展を遂げていったんだなあ、てな感じですね。原作ではどこにもフランケンの頭にねじクギがくっついてるなんて描写はないですものね。

このインテリな怪物が悩むあたりは創元版の解説にもあるようにディック+リドリー・スコットの「ブレードランナー」に深く引き継がれていたんですね。

まあ最近のウィルスものもフランケンに発しているとも言えるんじゃないかな。そういう意味では古典中の古典というか、ひとつのジャンルを発明した作品だと言えるのでしょうね。

フランスの哲学者にミッシェル・セールというおじさんがいて、ジュール・ベルヌの作品を読み込んでその背景に注目してこの時代の科学の潮流を解説している『青春』という楽しい本があるんだけど、だれかこの手法でインテリなフランケンが解説するロマン主義の批評本なんかを出してくれないかな。

しかしこのフランケンシュタインを造り出した化学者はいけすかない貴族的な倫理観の中だけで生きている嫌な奴(笑)ですね。
作者のシェリー夫人もわざと書いているんじゃなくて、この時代には当たり前みたいな感覚ですから、時代がたつと理解できなくなるものってけっこうあるんですね。
なんか主人公がやたら読者に訴えかけるように嘆くんだけど、それが情けないったらありゃしない、というかいい加減にしろ、なやよなよするなっていう感じ。
まだ、世界征服をもくろむアメリカ生まれのマッド・サイエンティストの方が潔いですねー。

なぜかドラキュラもフランケンシュタインも狼男も中央ヨーロッパ生まれですけど、じめじめしてますねー。東欧にも梅雨があるのかしらん。最近、関東も梅雨なんすかねー、じめじめしてますね。あーやだ。


★羊男★1998.5.30★

物語千夜一夜【第十七夜】

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