これは彼女の回想といってもよい作品らしく、アリゾナの「ピッツバーグに戻るや、私は全く自分のために本を書き始めた。私がまだ八歳か九歳でネブラスカの農場に住んでいた頃、隣り近所にいたスカンジナヴィア人やポヘミヤ人の話である。脚色も創作もなく、一切がひとりでに現れてきて、それぞれ自分の持ち場についた」というキャザー自身の言葉にあるように傑作を約束される要因を持っていた作品です。
彼女の言葉ほど素朴ではなく、計算された構成で、ヨーロッパから来た移民たちのたくましい労働の姿を非常に甘美的に描いています。
このアレグザンドラという女性を通して、人間と土地との戦いのプロセスをフロンティア・スピリットという言葉にまで高めています。この土地を耕して生きていく人間の運命を、パール・バックの「大地」ほどドラマチックではないけど、大草原に生きる孤独な人間の美しさと脆さを描いていて、どんどん物語に引き込まれていきます。
スウェーデンからの移住民というのも、ちょっと異質なのがアクセントにもなっているのですね。
ここしばらく日曜日の夜6時からは教育テレビで「大草原の小さな家」というアメリカ開拓時代を生きた家族とその共同体を描くドラマを見ているのですが、そういった前時代的で素朴な雰囲気も味わえるのが面白いです。
この中ではアレグザンドラという勝ち気で純粋な女性が家をきりもりしていく姿を中心に描かれているのですが、この時代には非常に強い意志を持った、普通の女性が普通に生きていたんだなあ、と妙な羨望と安堵感を感じることができます。
今は普通でなくなってしまった世の中で、普通に生きていくことが難しい時代なんだと、考えさせられます。普通に生活するといったことを馬鹿にしちゃいけないんだと思います。普通でないから、経営がまずくても税金で生き残っている銀行なんかが存在するのでしょう。なんか手を抜いて他人に寄りかかっているみたいな同質性は嫌ですね。私なんかも移民のようなたくましさを求めたいなんて、読後感を持ったりしました。
物語千夜一夜【第十二夜】