『鍵のかかった部屋』ポール・オースター
訳者:柴田元幸  発行:白水uブックス

【紹介】
美しい妻と傑作小説の原稿を残して失踪した友を追う「僕」の中で何かが壊れていく・・・。
緊張感あふれるストーリー展開と深い人間洞察が開く新しい小説世界。
高橋源一郎が激賞する、現代アメリカで最もエキサイティングな作家オースターの<ニューヨーク三部作>をしめくくる傑作。(背表紙より)

【感想】

これはきちんとストーリーのある(笑)感慨深い小説です。
いままで読んだオースターの小説のなかではベストだと思います。(まだ「ムーン・パレス」は読んでませんが)

妻をおいて疾走した小説家の友人が主人公で、様々な出来事を通して人間という存在の深みをよく照らし出しています。
この本では世界が不条理ではなく、小説家である人間がとても不条理に描かれていて、彼を取り巻く友人やその妻が嫌おうなく彼の不条理劇に取り込まれていく過程が静かな湖面に波紋を描くような不気味な精緻さで淡々と物語られていきます。

この淡々な語り口が魅力のひとつで、主人公の心底がゆっくりと鈍化していく様はとても哀しくて、人間という存在がいかに寄る辺ないものか、あるいは孤独というものがいかに底のないものかをじんわりと胸をしめつけるように物語っていきます。

そしてラストの予想を裏切らないクライマックスは、三部作の終わりにふさわしい、ちょっと眩暈のする光景で結ばれます。

この本は単独でも十二分に堪能できますので、私のオースターおすすめの1冊とさせて頂きます。(定価930円と手ごろですし、笑)


★羊男★1997.3.13★

物語千夜一夜【第九夜】

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