『幽霊たち』ポール・オースター

"Ghosts" Paul Auster 訳者:柴田元幸  発行:新潮文庫


【紹介】
私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。
真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何も変化もない。 彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー…。
80年代アメリカ文学の代表的作品。

【感想】

「ニューヨーク三部作」の第二作目。
これはけっこう暗い(笑)。「皮袋がふるい」という表現をどなたかがなさっていましたが、確かにどこかで読んだことあるかな、という雰囲気でした。ただ先行するカフカやカミュなどと違っている点は全体が希薄というか遠慮深い(笑)感じをさせますね。カフカのように権力を想起するような圧力的な雰囲気はないし、カミュのように自意識過剰な部分はありませんし。

 「どこでもない場所」(訳者の言葉)で起こる事件でない事件は抽象的な絵の中の出来事のように論理的な脈絡を持たないのですが、却ってそれがこの複雑な現代社会というものを心情的に表現しているような気がします。
「そう、我々のまわりは幽霊たちであふれている。」

「エレガントな前衛」(訳者の表現)という言葉に、オースターのかっこよさがよく現れていると思います。
アメリカには前衛とか世紀末とかいった言葉はなかなか似合わないですし、そうした表現を持っている人たちが前面に出るということが少ないのですが、このオースターは80年代を象徴するレイモンド・カーヴァーなどのミニマル作家と共通した言葉を使うことによってメイン・ストリームに浮上してきた、とも言えると思います。

全く感想になっていませんが(笑)、この小説はちょっとマニア向けですが、続く大傑作の三作目「鍵のかかった部屋」を読むためのランニングとしては、いいアクセントになっていると思います。

余談ですが、元ベルベット・アンダーグラウンドのルー・リードとオースターは表現のタイプがそっくりだと思います。やっぱりオースターは大作家というよりはニューヨークのアンダーグラウンダーというのがぴったし(^^)


★羊男★1997.3.11★

物語千夜一夜【第八夜】

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