『シティ・オブ・グラス』ポール・オースター
訳者:山本楡美子+郷原宏  出版社:角川文庫

【紹介】
ニューヨーク、深夜。孤独な作家のもとにかかってきた一本の間違い電話がすべての発端だった。
作家クィンは探偵と誤解され、仕事を依頼された。クィンは、ほんの好奇心から、探偵になりすますことにした。依頼人に尾行するようにいわれた男を、密かにつける。
しかし、事件はなにも起こらない・・・(背表紙より)

【感想】

いま話題のポール・オースターです。
これはすらすらと読み終わってしまいました。ストーリーとしては何があったのかよくわかりません(笑)。
描写がとても淡々としていて孤独でしかも物語がよく見えない(笑)ところが、新世代作家というよりは一昔前のメタ・フィクションの流れをほうふつとさせます。
敢えていえばドナルド・バーセルミなんかと似ているかもしれません(バーセルミもニューヨークの作家で不条理だけどタイトでかっこいい小説を書きます、笑)。

ただこのオースターの小説の「孤独さ」にはとても透明感がある、読んでいて閉塞感を感じさせないものなので、ここらがやはり同時代的で私はとても気に入りました。友人が以前、村上春樹とチャンドラーはストーリー展開よりも文体で読むと書いていましたが、オースターもその部類に入る作家なんだと思います。

『最後の物たちの国で』は「世界」がだんだん消えていく物語でしたが、この小説は「日常」を消費していくに従って見えてくる生の「生地」みたいなものを描こうとしているのかもしれません。
私はそう感じたのですが、著者がどう思っているのかほとんどわかりませんね(笑)。
ただこの作家も自分の「感性」にかなり忠実に小説を書いているんだろうな、ということは伝わってくる作品です。
読後感も静かに波が打ち寄せるような心地好さでした。


★羊男★1997.3.1★

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