ピーター・アクロイド
ピーター・アクロイドは最近の英国作家で私が気に入っている作家のひとりです。
ピーター・アクロイドとの出会いは地元の図書館でだった。
棚を眺めていると、以前ニューヨークタイムズで特集していた作家の名前が目に入ってきたのだ。
その記事をながめたときはなんか「ミクロイドS」という漫画のタイトルが浮かび、そのうそっぽい名前が気になっていたのだ。
そこで「原初の光」を借りてきた。
さっそく家に帰って読み始めと、静寂な雰囲気の小説でひじょうに心地がいい。
「原初の光」はまるでミニマルミュージックのような本だった。
登場人物の細かな意識が繰り返し話され、ストーリーはきちんとあるのにも関わらずほとんど足踏み状態になりがちなのである。
それでもその細かな意識の流れが気になってしかたがない。
こうした不思議な感覚が私好みの小説なのである。
「精神的なものと霊的なもの、現実と非現実、世俗とが不安定な関係を保って共存しいるのが、ピーター・アクロイドの小説世界の最大の特徴である。」
と大熊栄さんは紹介されています。
ピーター・アクロイドの小説は歴史空間の中に現在と通底する媒体を組み込み、その時代の意識を現代
に蘇らそうとする。その媒体は霊媒であったり、タイムスリップであったり、古代遺跡であったりする。
「霊の遍在という視点に立てば、20世紀から16世紀へのタイムスリップはそれほど唐突ではない。
むろん、リアリズムという視点に立つと、これはまったくばかげている。
しかしアクロイドはリアリズムなどは歯牙にもかけない作家なのだ。
問題は20世紀人の霊的体験であり、それによって生じる16世紀人への親近感である。」
と大熊栄さんは楽しそうにピーター・アクロイドについて語ります。
当然そうした過去の時代意識を描くには史実に通暁していないとつまらないでしょう。
そこがピーター・アクロイドの真骨頂で、いくつもの文学的な伝記を書いているし、実在人物を小説形式でも取り上げています。
彼が扱っている人物には、エズラ・パウンド、エリオット、ディケンズ、ワイルド、チャタートン、ジョン・ディーといった、なかなか唸らされるラインナップとなっています。
これもピーター・アクロイドの魅力のひとつでしょう。
1999年に発表されているSusana Onegaの"Metafiction and Myth in the Novels of
Peter Ackroyd"というピーター・アクロイドの研究の中で'historiographic metafiction'(資料編纂的なメタフィクション)という言葉を使っています。
SFでいうところの歴史改変ものと近い手法なんでしょうが、より時代考証をきっちり行い、その時代意識が立ち現れてくる様は英国独特の頑なさをもつ、英国らしい作家であると感じます。
ピーター・アクロイドの経歴 |
ピーター・アクロイドは、
1949年11月5日、ロンドンのアクトンで生まれています。
英国の小説家、詩人であり、評論家、伝記作家でもあります。
作風も実在の人物に材を取った小説が多く、非常にユニークで型にとらわれない面白い読みものとして人気があるそうです。
なんでも、テレビや映画評もこなすとか。
1971年、ケンブリッジ大学を卒業、その後イェール大学へも留学しています。
1973年、「スペクテイター」の編集者となります。
1986年、ロンドンの「タイムズ」書評の主筆となります。
その後、様々なジャンルの本を出版していきます。
小説をはじめ、不条理主義詩人たちの詩集や衣装の倒錯趣味についての研究 、評伝などたくさんの本を書いています。
彼の小説は、歴史と現在を意図的に接続させて、月並みな歴史小説では不可能な逸脱した物語を楽しませてくれます。 |
ピーター・アクロイドの翻訳本 |
◆1983 The Last Testament of Oscar Wild
小説『オスカー・ワイルドの遺言』訳:三国宣子 出版:晶文社 1990
1983年サマセット・モーム賞 |
◆1985 Hawksmoor
小説『魔の聖堂』訳:矢野浩三郎 出版:新潮社 1997
1985年ウィットブレッド賞、ガーディアン賞 |
◆1987 Chatterton
小説『チャタトン偽書』訳:真野明裕 出版:文藝春秋 1990 |
◆1988 T. S. Eliot
評伝『T・S・エリオット』訳:武谷紀久雄 出版:みすず書房 1988
1984年ウィットブレッド・ノンフィクション賞、ハイネマン賞 |
◆1989 First Light
小説『原初の光』訳:井出弘之 出版:新潮社 2000
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